小児治験ネット 始動

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47news
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子どもの治療に必要な薬なのに、
添付文書には子どもに対する用法や用量の記載がない―。
国内の小児医療の現場では、こうした薬の
「適応外使用」が日常化し、処方薬全体の
実に7割程度を占めている。
主な原因は、開発段階で行われる臨床試験(治験)の
多くが大人だけを対象とし、子どもでの効果や
安全性のデータが収集されないまま
国の承認を取得していることにある。
こんな現状を打開し、より有効で安全な薬を
子どもたちに届けようと、小児医療に携わる
27の医療機関が「小児治験ネットワーク 」を設立した。

やや古いデータだが、厚生省研究班(当時)が1999年度に
まとめた国立大病院など5施設を対象にした実態調査によると、
18歳未満の患者に処方した医薬品のうち、添付文書に
小児への用法・用量が明示されていた薬はわずか23・4%。
残る76・6%は「小児に対する安全性は確立していない」
などの断り書きを付けたものや、全く記述のないものだった。
こうした状況は10年以上がたった今も大きく変わっておらず、
子どもに関しては未承認状態の薬が数多く使われている。
「用法・用量が明らかな薬だけで子どもを治療するのは
不可能だ」と小児医療関係者は話す。
だが、適応外使用はさまざまな問題をはらむ。
第一に安全性や有効性は必ずしも十分に評価されていない。
また、原則としては医療保険が適用されず、
患者の全額負担もありうる。
万が一、副作用で健康被害が生じた場合、
国の救済制度の対象外になる可能性もある。

さらに「剤形変更」も問題だ。もとは大人用に開発された薬。
錠剤やカプセル剤など、小さな子どもが
うまく飲めないタイプのものが多い。すると何が行われるか。
「やむを得ず、錠剤を割ったり、乳鉢と乳棒を使ってつぶしたり、
カプセル剤の中身を取り出したりする。
ミキサーで粉砕して大量に作り置きすることもある」
と小児専門病院の薬剤師は話す。
しかし、剤形を変えると有効成分の均一性や安定性、
効果が損なわれる恐れがある。
また、投与量などは医師の経験頼みで、
施設によってばらつきが生じることも。
医療現場は子どもに合った剤形の開発と、
用法・用量の明示を切望している。
製薬企業が子どもを対象にした治験に消極的なのは、
患者数が少なく被験者を集めにくいこと、
用量も少なく開発コストに見合った利益が得にくいことなど、
採算性の問題が大きいとみられる。

小児治験の受け皿となるべく、昨年、小児専門病院で
組織する日本小児総合医療施設協議会 を母体として
小児治験ネットワークが発足した。
事務局が置かれた国立成育医療研究センター によると、
最大の特徴は加盟27施設が一体となって
製薬企業からの治験の依頼を受託する点だ。
窓口の一元化と施設間の情報共有により、
治験の質やスピードをアップするとともに、
施設調査や治験の進捗管理といった
企業側の負担軽減を図り、開発コストの削減につなげる。
企業が小児の治験に踏み出しやすい環境をつくる。
事務局は現在、治験実施に必要な手順書や
各種手続きの統一化などを急いでおり、
年内には一定の体制を整えたい考え。
NPO法人「難病のこども支援全国ネットワーク」の専務理事は
「子どもの病気は希少疾患も多く、
薬の開発や認可が遅れている。
治験を活性化する動きは大歓迎だ」と期待を寄せている。
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