発達障害を就学前から支援 保育所・幼稚園で取り組み広まる


朝日新聞
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小学校入学の準備が進む季節。
意思疎通などに困難を抱えやすい発達障害は、
親や周囲が早期に子どもの特性を把握し、
適切な支援や環境調整をすることで、
社会に適応しやすくなるとされる。
埼玉県内でも、保育所や幼稚園など、
就学前から支援する取り組みが広がっている。

■絵活用・専門家助言も

給食が配膳された子どものテーブルを、保育士が回る。
静かにするよう注意を促す絵を描いたボードを持っている。
食事が始まると部屋の後ろに、
給食の残り時間を示すタイマーが、ボードと一緒に置かれた。
本庄市児玉町児玉の「児玉保育園」の光景だ。

園長は「言葉より目で見たほうが分かりやすい子がいるので」と言う。
教室に備えられた「やめて」「静かにして」などの
イラストカードは、保育士や、気持ちを言葉にするのが苦手な子どもが使う。

園児約200人のうち約1割が、
発達障害だと診断されたりその疑いがあったりして、
支援が必要だという。園長は「今は預かる時間が長く、
保護者よりも早く(発達障害の疑いに)気づくことが多い。
0歳から見ていると、2歳ぐらいには分かる」と言う。

入園1年目のある子どもは当初、教室に一歩も入れなかった。
母親は「わがまま」と受け止めていたが、
園は発達障害の特性を感じ取った。
別室通園から始まり、興味のある物で徐々に教室へ近づけた。
パニック時に1人になれる避難場所も確保し、
今ではほとんどの時間を集団で過ごせるようになったという。

園は約20年前から、親と専門家の言語聴覚士らが交流する
「ひまわり会」を開いている。
対象は当初、重度の障害児だったが、
今では発達障害児やその疑いのある子どもがほとんどだ。

専門家は隔月で来園し、子どもの様子を見る。
保育士だけでなく、親も交えて報告会をし、
家での育児法を助言する。
親同士が「自分だけじゃないんだ」と共感し、
前向きな気持ちになれる場にもなっている。

課題はある。異年齢クラスなので
保育士を複数配置できているが、
支援が必要な子どもが増えると足りない。
医師の診断か障害者手帳がないと制度上、職員は増やせない。
親の支援では保健師ら地域と連携したいが、
十分ではない。「多くの保育所が悩んでいると思う」と、園長は言う。

■中学まで巡回継続

朝霞市は、就学前から中学校まで途切れない支援を目指し、
2009年度から「育み支援バーチャルセンター事業」を始めた。

中核は巡回相談。対応に苦慮する現場を支援するため、
年2回、小児神経科医ら専門スタッフと市職員が
市内の全保育所、幼稚園、小中学校を訪問する。

1月、市内の保育所を臨床心理士や作業療法士らが
スタッフとして訪れた。
5歳児たちの遊びや給食の様子を観察した後、
保育士と情報交換をした。

「信号を見ずに飛び出そうとするので、手を離せない」
「人の輪に入ろうとするけれど、はじき出されがち」。
保育士が気になる子どもへの対応法を相談すると、
スタッフが観察を踏まえ、
「助けてあげられる子を周りに配置したら」
「視覚情報の方が頭に入りやすい」などと助言した。
保育所の園長は「対処法を確認でき、助かる」。
気になる点を保護者に伝える時も
専門家の見解が支えとなり、安心できるという。

スタッフの中心は、医師でもある
「日本赤ちゃん学会」の小西行郎理事長。
障害児対象の保育所巡回で市に携わり、
自身も年1回は全所を巡回する。
市保健センターで開く専門相談も担当。
親の理解が必要な時、園や学校からは伝えづらいとして、
その役割も担う。

「発達障害は日々の生活上の問題で、
周囲の子どもを含めた環境調整が大切。
親や保育士、教師らの理解や連携が欠かせない」

事務局は保健センターが担う。
保健師は全戸訪問や乳幼児健診で、
最初に親子と接触する立場にある。
巡回では、保健師がこれまでつながりがなかった
幼稚園や小中学校に同行する。

早期支援には、親の「気づき」と理解が必要だが、
保育や教育の現場ではまだ難しいという。
市健康づくり課の担当保健師は
「継続して育ちを見ることができる保健師が
つなぎ役になれれば」と話している。

■保育士・親向けに県が冊子 現場の工夫や特性解説

埼玉県は発達障害支援に力を入れるとして昨秋、
保育士や幼稚園教諭向けのガイドブック3万冊を作り、
政令指定都市のさいたま市を除く県内の全施設に配った。

「大切な話をする時、じっとしていない」など、
気になる行動を例に挙げ、困っている原因を考えるよう促し、
児玉保育園など支援に取り組む現場の工夫も紹介している。

保護者用の啓発冊子も作り、23万冊を配った。
気になる行動やその理由、対処法のほか、
発達障害児やその保護者に対する偏見を持たぬよう、
特性などを解説し、理解を求める内容になっている。

県は「早期発見・支援のためには、
就学前の日常生活での理解と支援が必要」
と狙いを説明する。
保育所や幼稚園の職員向けに
「支援サポーター研修」を実施し、
県内の8割以上の施設から
約1600人が参加しているという。(帯金真弓)
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