薬:子どもに無理せず飲ませて 「食後」こだわらず、タイミング見て、意味説明も



毎日jp
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子どもがきちんと薬を飲んでくれない……と悩む親は多いのでは。
飲みやすくなる方法を考えた大学の研究者や子育て中の薬剤師に、
どんな工夫をすればいいのかを尋ねた。【鈴木敦子】

「こども×くすり×デザイン実行委員会」(福岡市)は、
08年に九州大大学院の平井康之准教授(デザイン工学)と
NPO「こどもとくすり」(福岡市)の中村守男代表(34)ら4人が結成した。
子どもがストレスを感じずに服薬する方法や、
薬の重要性を大人が子どもに伝える方法を考えつつ、
薬のデザインも研究している。

平井准教授の研究室に所属する大学院生が、
07年8月に育児情報サイトを通して行った調査では、
0~8歳の子どもの母親42人のうち18人(43%)が
「子どもは薬を正しく飲めていない」と回答した。
うまく飲めない理由(複数回答)は「嫌がるため」が最多(16人)で、
理由(複数回答)は全員が「薬の味」を挙げた。
苦さに加え、小児薬特有の甘さや香りを嫌う声があったという。
「気持ちの問題」も10人に上り、
口に入れてのみ込むまでの心理的な障壁が高いことも分かった。

子どもの心理的・身体的な拒否感をなくすには
どうしたらよいのか。
大切なのは、遊びの要素を加えるなどの
「動機付け」だという。
その一つが形の面白さだ。
実行委は▽魚のカプセル▽ゾウの鼻の吸入器▽動物や果物の
経皮吸収型シート(気管支拡張剤など)
▽カメのばんそうこう--
などを考案、モデルをつくった。

製薬会社に見てもらったところ、
「魚のカプセルはのどに引っかかるのでは」
「コストが掛かる」との意見があり、
現実的には早期の実用化は難しい。
平井准教授は「子どもが薬を飲まないのは気分の問題が大きい。
意識の転換も考えてもらえれば」と話す。

苦い薬をゼリーで包んだり、
アイスクリームに混ぜ込んだりする方法もある。
だが薬によっては苦みが増すものもあり、
素人には判断が難しい。
平井研究室では、味覚を感じやすい部分を避けて
飲めるようなストローの開発も提案している。

×  ×  ×

中村代表は薬剤師で2児の父。
育児を経験し、衝撃を受けた。
すんなり薬を飲んでくれるものと思っていたのに、
長男(7)が小さいとき、薬を嫌がって大泣きする姿を見て、
今までの仕事を反省したという。

例えば「1日3回、食後に飲ませてください」という
保護者への言葉掛け。
何の気なしに使っていたが、
中村さんの子どもたちは離乳期の食事にムラがあり、
1日2回のことも。また満腹時は口を開こうとしなかった。
体力が低下していれば3食取れるかも怪しいし、
授乳後は満腹で薬を吐いてしまう乳児もいる。

「食後にこだわる理由はない。1日3回の薬なら約4時間、
2回なら約8時間の間隔で大丈夫。
それを伝えるだけで、親は気が楽になる」。中村さんはいう。

「極論を言えば、鼻水を抑える薬などは
無理に飲ませなくてもいい。
時間はかかるけど自然に治る症状は多い。
親が必死の形相で飲ませようとすると
子どもはますます嫌がってしまう」。
中村さんの助言に、ある女児(1)の母親からは
「無理に飲ませなくなった途端、
子どもが飲むようになった」と喜ばれたという。

中村さんが自分の子どもで成功した方法は簡単なものだ。
まず風呂上がりや寝起きなど、のどが渇いていたり、
ぼんやりしている時に飲ませた。
言葉が話せるようになると、
「テレビを見終わったら飲んでみる?」などと
飲むタイミングを本人に選ばせた。
同じ効果で液体・粉末・錠剤の種類がある薬なら、
自分で選ばせるようにした。

また効果を理解させることも重要だ。
最近は長女(5)には、「これはバイ菌をやっつける薬だよ」
と説明すると、苦い粉薬でも
我慢して飲むようになったという。

◇薬に親しむ絵本、製薬会社が作製

塩野義製薬(大阪市)は、
ライオンの子どもが薬を飲んで元気になるストーリーの絵本を作製、
07年から病院などで配布してきた。
市場調査から、子どもが薬を飲まなくて
親が苦労している様子が明らかで、
「薬に対する抵抗をなくしたかった」からだ。
自社製品の抗生物質のイメージキャラクター「モックスくん」を使って、
0歳児用▽1~3歳児用▽4、5歳児用を完成させた。

苦い薬を包み込むゼリーも販売されているが、
子どもの飲みやすさに着目した薬の開発はなかなか難しい。
少子高齢化で小児より成人向けの薬の開発が
優先されている製薬業界の事情もあるという。
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