「児相元職員 処分寛大に」 児童入所違法手続き 福岡地裁で初公判 同僚ら嘆願書提出



西日本新聞
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急増する児童虐待

厚生労働省によると、
2010年度に全国の児童相談所が対応した児童虐待は、
過去最多の5万5152件(速報値)。
前年度を1万2090件上回り、
1990年度の集計開始から20年連続の増加となった。
福岡市は22%増の604件。
同市こども総合相談センターは職員1人当たりの
担当件数が08年度は約150件だったが、
以降職員が増員され10年6月時点では
約90件まで緩和されている。

「児相元職員 処分寛大に」 児童入所違法手続き
福岡地裁で初公判 同僚ら嘆願書提出

●1人で担当160件 検察も「多忙」言及

保護した子どもの児童養護施設への入所に関する
公文書を偽造したなどとして有印公文書偽造・同行使の
罪に問われた福岡市こども総合相談センター(児童相談所)
元職員の男性被告(60)の初公判が29日、
福岡地裁(高原正良裁判長)であり、
被告が勤務していた同センターが福岡地検に所長名で
寛大な処分を求める異例の嘆願書を提出していたことが分かった。
公判では、事件の背景に児童虐待の急増に伴う
児相業務の多忙さがあったことを弁護側が主張。
検察側もこの点に言及し、懲役2年を求刑した。

弁護人は閉廷後「『身内に甘い』と批判を受けかねないことから、
公務員の不正行為に対して所属する役所は
厳しい対応を取るのが一般的。
寛大な処分を求める嘆願書は珍しい」と語った。

公判は同日結審。
児童虐待が全国的に急増する中、3月28日の判決が、
児相の過酷な業務にどう言及するかが注目される。

元職員は、定年退職後の昨年12月に在宅起訴された。
起訴状などによると、在職中の2008年7月、
担当する児童の施設入所更新手続きを行う際、
福岡家裁の審判書のコピーを偽造したとされる。
児童福祉法上、児童の施設入所は親の同意がない場合、
家裁の承認が必要となるが、
元職員は承認がないのにあるように書類を偽造し、
上司に提出したという。

嘆願書は、昨年10月にセンター所長名で提出された。
「慢性的な人員不足もあり、
元職員の過酷な労働環境に適切な対応ができなかった。
当所も事件の要因の一端を担っており、
元職員のみの責任とするのはあまりに酷です」などと記した。

また、証人出廷した元上司らの証言などによると
(1)児相職員の1人当たりの担当件数は、
文書偽造があったとされる08年当時の福岡市は
約150件で、全国17政令市(当時)の中でも
相当に多忙だった
(2)その中で、元職は160件以上を抱えていた
(3)粗暴な保護者との交渉の困難さや
夜間・休日も呼び出しが続く繁忙さから
うつ状態と診断されていた-という。

証人出廷した同センターのこども緊急支援課長は、
嘆願書提出の理由を
「彼の行為は、市民の信頼を裏切る許されないものだが、
背景に体制上の問題があった。
彼の精神的な問題も認識していたのに、
熱心な仕事ぶりから、われわれが十分な
サポートをしていなかったことを理解してほしくて、
組織の総意として提出した」と語った。

一方、元職員は起訴内容を認め、
被告人質問で「24時間子どものことが
頭にこびりついて離れなかった」と、
ストレスから不眠に悩まされた当時の様子を振り返った。

検察側は論告で「虐待児童への対応が繁忙で
うつ状態にあったなど、くむべき事情が
ないわけではない」と述べた。

弁護側は最終弁論で「精神も肉体も疲労し、
うつ症状は本人の意志では制御できないほど重かった」
として執行猶予付き判決を求めた。

●欧米は20件、福岡市は相当過酷

▼児童虐待問題に詳しい安部計彦・西南学院大教授の話
 今回の事件は真面目な児相職員ほど陥りやすい
バーンアウト(燃え尽き症候群)の典型だろう。
日本の児相職員の平均担当件数は
1人100件ほどと言われているが、
それでも欧米の1人20件に比べると多すぎる。
1人150件だった福岡市は相当過酷だったと言える。
児相を巨大化するだけでなく、
区役所や地域のサポートを活用する
虐待対応システムの整備が必要だ。
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