子育て新システムの落とし穴 保育先確保 自己責任化の恐れ


東京新聞
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「子ども・子育て新システム」の関連法案が国会に提出された。
成立すれば、利用者が就学前の子どもを対象にした
多様な施設の中から選び、直接契約することになる。
従来と比べて保護者や施設、市区町村の役割はどう変わるのか。
問題点を探った。 (小形佳奈)

新システムの柱は、未就学児向けの
教育・保育の利用者に利用料を補助する「こども園給付」だ。

「国が保育所や幼稚園に出していたお金を利用者に給付し、
『そのお金で必要なサービスを買ってください』という仕組み」。
立正大学社会福祉学部の
中村尚子准教授(障害児教育学)は解説する。

こども園には、幼稚園と保育園の機能を一体化した
「総合こども園」と、〇~二歳児を受け入れる保育所、
三~五歳児のための幼稚園がある。
給付は利用者ではなく、施設が代理受領する。

 ◆利用者は

こども園などの施設に直接申し込み、契約する。
現在も幼稚園や無認可保育所に対しては
直接申し込んでいるが、
認可保育所を希望する場合は
市区町村に施設の希望順位を書いて申請し、
入園先を決めてもらっている。
新システムでは、保育が必要な場合は
市区町村の必要度認定を受けてから施設に申し込む。


 ◆市区町村は

現在は保護者の労働時間、収入、祖父母の近居など、
さまざまな要件で総合的に「保育に欠ける」度合いを判断し、
保育料を徴収している。
新システムでは、市区町村は保育が
必要な時間の長短だけを認定する。
また地域の保育需要を調査し、
必要な子育て支援の体制や実施時期について
計画を立てるが、保育の実施義務はなくなる。

 ◆施設は

申し込みが定員を上回った場合は利用者を選考する。
保育が必要ない利用者に対しては、
現在の幼稚園と同様に先着順や
建学の精神に基づく選考も可。
利用時間や所得に応じた個々の保育料を
算定、徴収など、現在の認可保育所にはない
事務作業が増える。
◇経営考え、長時間利用者優先も

新システムは、保育所に入れない
待機児童の解消を目指すが、
その八割を占める〇~二歳児の受け入れを
幼稚園には義務付けていない。
こども園の枠外で保育ママや小規模施設などを
「地域型保育」に指定して給付を行い、
受け入れを促進するが、
待機児童解消につながるか不透明だ。

利用者と施設との直接契約で、
市区町村が保育の実施義務を負わなくなる点も、
鹿児島大学法科大学院の伊藤周平教授(社会保障法)は
「認定を受けた子どもが施設に入れないのは、
公的責任ではなく、保護者の自己責任になる」と話す。

新システムは、介護保険法や障害者自立支援法と
同じ仕組みを持つといわれる。
介護保険では認定を受けても
施設不足でサービスが受けられない「介護難民」が問題になった。
自立支援法では自己負担増に対応できない障害者が
利用を控え、経営が悪化した施設が
人件費を削るなどの弊害が生じた。
また、要介護度や障害区分認定が高いほど
報酬も高いことから、経営安定のため
利用者を選ぶ施設もあるという。

「自立支援法で、利用者は施設を選べる、と言われた。
でも、選べるのではなく、選ばれている」と中村准教授。
伊藤教授は「保育需要の多い都市部では、
施設は給付額の多い長時間保育の
子どもを優先するだろう」と予想する。
新制度への疑問は膨らむばかりだ。
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