ひと・しずおか:聴覚障がいを乗り越え保育士を目指す、大村杏寿さん /静岡


毎日jp
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◇同じ境遇の人たちの手本に
−−大村杏寿(おおむら・あんじゅ)さん(18)

「保育士になる」。今月、強い決意を抱き、
焼津市の静岡福祉大の門をくぐった。

生まれつき両耳の聴覚に障がいを持つ。
小学2年のときから補聴器をつけて生活する。
顔を合わせての会話に支障はないが、
後ろからの声は聞きとりにくいこともしばしば。
本人は「これが普通だと思ってきた。
最初から受け入れている」と全く気にしない。

「大の子ども好き」を自認する。
原点は、中学時代のランチタイム。
通っていた静岡市内の聴覚特別支援学校の給食は、
決まって幼稚部・小学部・中学部合同で食べる。

「あんじゅちゃん、あのね、きょうはこれやったんだ」。
ランチルームに一歩足を踏み入れると、
幼稚部の子どもたちが走って駆け寄ってくる。
「毎日子どもと接していたら自然と子ども好きになった。
私、子どもに好かれてるみたいで」と笑みを浮かべる。

「ねえ、これなに」。高校2年のとき、
沼津市内の保育園に1週間、職場体験に行った。
初めて会う子どもたちは耳につけた補聴器に興味津々。

「わたしは、みみがきこえにくいの。
だから、みんな、ゆっくり、しゃべってね」。
最初は分かってくれなくても、
しだいに子どもたちは自分に配慮してくれるようになった。
「子どもが成長していく姿。
見るのがたまらなく楽しいんです」

保育園の女性園長からは
「初日から子どもたちがこんなになついたのを初めて見た。
あなた、保育士になったら」と勧められた。
保育士を目指すきっかけとなった。

嫌なこともあった。
昨年秋、県内の専門学校を受験。
面接官の男性に思わぬことを言われた。
「耳の聞こえない人に命を預けることはできない」

悔しかった。
迎えにきた母の運転する車内で
人目をはばからず涙を流した。
そんなとき母からかけられた言葉は「見返してやりなさい」。

落ち込んでる暇はない。
インターネットなどで受験できる学校を必死に調べた。
静岡福祉大なら保育士の勉強ができることを知って受験した。

現在、週5日の授業に加え、
衣料品販売店で始めたアルバイトをこなし
忙しい毎日を過ごす。
新しい友人からは「とにかく明るくて前向き」と人気者。
「耳に障がいをもっているなんて
全く気づかなかった」と口をそろえる。

「絶対保育士になって見返してやりたい。
そして、同じように障がいを持つ人たちのお手本になりたいです」。
夢に向かって歩き出した。【山本佳孝】
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■人物略歴

静岡市出身。4月から静岡福祉大社会福祉学部に入学。
趣味は小学5年から始めたジャズダンス。
中学1年から高校卒業まで手話を勉強し習得。
「どんなときでも子どもの目線に合わせ、
話を聞いてあげられる保育士になりたい」
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