双子が生まれた! 多胎家庭の育児を探る


朝日新聞
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ただでさえ大変な育児。
それが2人、3人同時だとしたら――。
今年2月に妻が双子の女の子を出産した記者が、
双子や三つ子の育児の現状を取材した。

●サークルで悩み共有 ママ友やっとできた

走り回る10人の子どもを
5人の母親が追いかけ回したり見守ったり。
母親同士の育児話にも花が咲く。
宇都宮市の多胎家庭サークル「さくらんぼツインズ」。
双子の家族が集まって歌や踊り、工作などで遊ぶ。
市内に二つあるクラブのうち、
小学校で月に1、2回開かれている
南クラブの集まりを訪ねた。

3歳の長男暉琉(ひかる)ちゃん、長女咲良(さくら)ちゃんと
参加する野木晴子さん(30)は、
多胎ではない「単胎」の母親と話が合わず、
ママ友ができないことが悩みだった。
「ベビーマッサージの話題が出ても、
私は2人を連れては行けない。
2人同時にぐずると抱っこもできない。
普通に会話するだけで落ち込んだ」。
だが、さくらんぼツインズに入り
「双子同士だと話が合う。
一緒に遊ぶ友だちもできて本当によかった」と話す。

約7割が2500グラム未満で生まれる
多胎児を持つ家庭には、
未熟児向け教室が紹介されることが今も多い。
さくらんぼツインズは、そうした教室に通っていた母親の
「双子だけの悩みもある」との声から、
1999年に結成された。

市保育課の管轄で、育児サークルを支援する
「子育てサロン中央」の担当者は
「双子の親同士だからわかることがたくさんある。
この病院は双子用のベビーカーで入れるなど、
いい情報交換の場になっている」と話す。


●歩けるまで我慢? 大きい経済負担

多胎家庭サークルでも、
母親のニーズに応え切れない部分もある。
3歳の長男昴琉(すばる)ちゃん、長女琉杏(るあ)ちゃんと
さくらんぼツインズに参加する小薬浩実さん(29)は、
2人が生後7カ月の時に参加しようとしたが、
「歩けるようになってから」と断られた。
「待っているお母さんはたくさんいる。
歩ける前から集まれる場があれば」と望む。

歩ける子どもに限定しているのは、
宇都宮市内の33の育児サークルの代表者会議で
一時期、「参加者の低年齢化で、
どんな活動をしていいかわからない」との声が
相次いだためだ。

そもそも多胎家庭サークル自体が県内には少ない。
県などへの取材で把握できた、
常時活動しているサークルは宇都宮に
さくらんぼツインズの二つ、
下野市に別の一つがあるだけだ。

多胎家庭は経済的負担も大きい。
だが、それに対する支援は全国的にもほとんどない。
小薬さんは「おむつも倍。ミルクも倍。
幼稚園に入る前にそろえる物品もすごい額」とこぼす。

県ではすべての妊産婦や子どもの医療費が無料で、
3人以上の子どもを持つ世帯では
3歳までの保育園料も無料だ。
ただ、県こども政策課の担当者は多胎家庭について
「そもそも数が少なく
(支援を求める)声も届いてこない」と話す。 


●行政巻き込み支援 石川にはNPO法人


石川県には行政を巻き込んで支援に動く民間団体がある。
NPO法人「いしかわ多胎ネット」だ。

研修を受けた多胎育児の経験者が
家庭訪問で悩みを聞く「ピアサポート」や、
多胎家庭の特徴を知ってもらう講演会、
サークルの立ち上げ支援、多胎の妊婦と
父親向けの「プレママ(パパ)教室」など活動は多岐にわたる。

研究者や医療機関、育児支援団体、
各サークル、自治体が情報交換をしながら
効果的な活動を探っているのが特徴だ。
立ち上げに参加した石川県立看護大の
大木秀一教授(公衆衛生学)は
「問題はこんな支援や場があるという情報の不足。
サークルがつながり、さまざまな立場の人が
集まる場があれば補える」と話す。

石川での活動が広まり、
岐阜や兵庫、大阪など数府県でも発足。
2010年には地域のネットワークを束ねる
日本多胎支援協会(さいたま市)も設立され、
各地で多胎家庭が抱える問題や
ネットワーク作りのノウハウを伝える。

大木教授は「行政が多胎家庭に特化した支援を
密にするべきだとまでは思わない。
だが、育児に特異な困難を伴うことは
社会全体が理解してほしい」と話す。


●不妊治療普及し急増 多胎の県内出産率

少子化の傾向とは逆行して、
多胎児の数は80年代の不妊治療の普及とともに急増した。
自然の多胎妊娠の確率は約160分の1だが、
2000年代は出生数1千人のうち
20人が多胎児になった。
母親約100人に1組生まれる計算だ。
だが、日本産科婦人科学会が
不妊治療の際に移植する胚(はい)を
原則一つとするガイドラインを08年に出したこともあって、
ここ数年は減っている。

県内の多胎出産の割合は、
01年に1・31%で全国1位になるなど
高い傾向にあるが、原因は不明だ。

大木教授らは昨年までに
全国の多胎家庭への意識調査を実施。
時期や規模が異なり単純には比較できないが、
その結果と国や日本小児保健協会の調査を比べると、
多胎家庭の負担の大きさが顕著に表れた。

父親が育児を「よくやっている」割合は、
単胎37・4%に対して多胎では55・1%。
家事を手伝う割合も単胎のほぼ2倍だった。
大木教授は「一方で離婚も多く、
多胎家庭では男の力量が問われる」と話す。


●取材を終えて

さくらんぼツインズの取材後、
5組の双子家族と昼食をご一緒した。
「少し大きくなると2人で遊び、私も入れない」
「出が悪い哺乳瓶の方がその後ぐっすり寝てくれる」。
先輩ママたちの経験談やアドバイスに、
強い味方ができた気がして心強かった。

私の妻は授乳とおむつ交換、
寝かしつけを昼夜3時間ごとに2人分。
私は帰宅後、その手伝いと双子のお風呂、洗濯。
先が見えない睡眠不足の日々だ。

話だけでなく、元気に走り回る2~3歳の双子たちを見て、
いずれはここまで育つという希望も持てた。
県内には多胎家庭サークルはまだ少ない。
ただ、先輩たちの話を聞き、
その姿を見ることは大きな励みになると実感した。(山岸玲)

※さくらんぼツインズの問い合わせは
「子育てサロン北雀宮」(電話028・653・5164、
月~金曜日の午前8時半~午後5時、土曜日は午後4時まで)へ。
日本多胎支援協会は電話048・877・4244
(月、水、木曜日の午前9時~午後4時)
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