保育園:自主性育む「見守る保育」 日々の活動、自分で選択 縦割りクラスで年少者サポート


毎日jp
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子どもの意思を尊重する「見守る保育」や、
年齢の異なる児童を同じクラスにする「縦割り保育」を導入し、
子どもの自主性を育てることを目指す保育園がある。
身につけさせたいのは「生きる力」。
全国で約300の保育園が、こうした取り組みを実践している。
その一つを訪ねた。【鈴木敦子】

さいたま市桜区の「浦和ひなどり保育園」の朝は、
園児自身がその日の活動内容を選ぶことから始まる。

園児たちは、自分の顔写真が貼られたマグネットを手に、
その日の活動メニューが書かれたホワイトボードの前に向かう。
ホワイトボードには「どんぐりやま」「えんてい」「おへや」の文字。
園児たちは「お外で遊びたい」「どんぐり山がいい」と、
メニューごとに分けられたホワイトボードに
自分のマグネットを貼り付ける。
その日自分がやりたいことを周りの人たちに知らせるのだ。

「どんぐりやま」を選んだ園児はさっそく、
園舎の裏山にある竹やぶに向かって歩き出した。
保育士はできるだけ、園児の後ろを付いていく。
前を歩けば「子どもの意思」でなくなるからだ。

どんぐり山に着くと、園児は竹によじ登ったり、鬼ごっこを始めたり。
危険なことをしない限り、何をして遊ぶかは園児の自由だ。

「園庭」を選んだ園児たちは、
砂場に座り込んだ1歳児を世話するように、
数人の年長児が寄り添ってスコップを手渡していた。
保育士は、数歩離れた場所から、園児たちの姿を眺めていた。

園内で積み木で遊んでいる途中で給食の時間になると、
園児は手書きの「つづきカード」を置いて離れる。
後で続きをやれると分かっていれば、
園児は給食などで中断されてもぐずらないという。

同保育園では0〜1歳児▽2歳児▽3〜5歳児
−−の三つに分ける「縦割り保育」を実施している。
給食の時間、3〜5歳児のクラスでは、
エプロンをうまく着られない男児を、
年長の女児が手助けしていた。
お昼寝の時間には、年長児が0、1歳児に寄り添い、
頭をなでて寝かし付けていた。



園長の丸山和彦さん(35)は大学院修了後、
02年に父親から園を引き継いだが、
当時の保育方法は現在と全く違っていた。
遊びの時間になると、保育士が園児におもちゃを渡す。
園児が言うことを聞かなければ、大声で注意する。
夕方の延長保育は、
園児にただテレビを見させるだけだった。

違和感を覚えた丸山園長は、
他の保育園を見学して回る中で、
当時から「見守る保育」を提唱していた
「せいがの森保育園」(東京都八王子市)園長の
藤森平司さん(63)=現「新宿せいが保育園」園長=と出会う。
保育士がどらを1回鳴らすと園児たちが
「自分たちで遊びを作り出す」様子に驚いた丸山さんは、
2年目の03年、自ら「見守る保育」の実践を始めた。

「当初、現場は混乱の連続だった」。
浦和ひなどり保育園の梅原邦子主任保育士(60)が振り返る。
ピアノに乗るなどのいたずらを繰り返す子を
大声で叱ったり、園児同士のけんかを慌てて仲裁する保育士もいた。

だが、今では「ピアノは乗るもの?」
「お友だちに言いたいことがあるの?」などと話しかけ、
子どもの反応を確かめる。
手を出しやすい子がけんかを始めると、
手を振り上げた瞬間にサッと止めに入れるよう、
そばで聞き耳を立てる。

保育室には「ピーステーブル」と呼ばれる一角がある。
1台のテーブルと、それを取り囲む3脚の椅子があり、
けんかをした園児同士が自ら話し合いの場を持つことも。

「大人から促されて謝るのでは意味がない。
保育士が適切に声をかけたり、
解決に向けた環境を整えることが大切だ」と丸山園長。
梅原さんも「子どもたちはたくましくなり、
自分の考えをしっかり出せるようになった。
私たち保育士も日々鍛えられている」と話す。



なぜ、今「見守る保育」なのか。

新宿せいが保育園の藤森園長は「自分で決められない、
人間関係をうまく結べない人が増えたと感じる。
幼児期の過ごし方に起因するのでは。
日本では『3歳までは親の手で』という考えがあるが、
兄弟が多く、地域社会との関係が密だった時代ならともかく、
少子化や核家族化が進んだ現代では難しい」と指摘する。

「見守る保育」では、子ども同士のタテの人間関係を作り、
保育士は必要以上に子どもを管理しない。
年齢の違う園児が一緒にいることで、
年長児は自然と年少児らに手を貸し、
手本を示そうとする。

「擬(ぎ)きょうだい」の必要性を提唱している
日本発達心理学会理事長の子安増生・京都大大学院教授は
「役割が人を育てる。『世話される側』から『する側』になろうと、
子ども自身が変わっていく」と意義を語る。

だが、課題も少なくない。
子安教授は「保育士の力量が問われる。
子どもの発達の一歩先を行く選択肢を、
いかに提示できるかがカギになる」と指摘している。
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