学童保育に企業・塾進出


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独自の教育、サービス

放課後の小学生を預かる学童保育が不足するなか、
企業や学習塾が学童保育事業に乗り出すケースが相次いでいる。
多くは国の制度の枠外で補助金も受けていないが、
学習に力を入れるなど特色を出している。

 「2時からお勉強の時間ね」

東京都狛江市にある学童保育施設
「小田急こどもみらいクラブ」で、
指導員が小学1、2年生に声をかける。
子どもたちはランドセルから筆箱やノートなどを取りだし、勉強部屋へ。
指導員が隣に付き添って、45分ほど学習する。

同クラブは、小田急電鉄が沿線住民への子育て支援事業として
今年3月、初めて開設した。
放課後から午後7時までの保育時間に、
学習塾の通信教育の教材で学ぶ時間を設けているのが特徴だ。
指導員は提携している学習塾で指導法の研修も受ける。
駅から近く、保護者にとっての利便性も高い。
利用料は週5回の利用で月額約6万円。
現在、児童28人が利用する。

鉄道会社や塾などの民間企業が、
相次いで学童保育事業に進出している。
京王電鉄も昨年7月から東京都世田谷区内の
自社沿線に開設した。

明光義塾の明光ネットワークジャパンは
2011年2月、学童保育
「明光キッズ石神井公園」(東京都練馬区)を開設した。
学習塾大手のサピックス・代ゼミグループは
「ピグマキッズ」を開設、現在都内2か所にある。
自社の教育プログラムに加え、おやつや遊びの時間を設け、
普段は午後7時ごろまで、
学校の長期休暇には朝から子どもを預かる。
ほかにも、英会話スクールを運営する企業が、
保育時間中の会話を英語で行う学童保育を展開している。

企業や学習塾による学童保育は、
午後7時以降の延長保育や子どもの入退室を
保護者にメールで連絡するなど独自のサービスも展開する。
多くは行政の補助金がなく、
既存の学童保育に比べ利用料が高い。
習い事や塾に通わせたいと考える保護者が、
地域の学童保育と併用して、
週に数回だけ利用するケースも多い。

企業型の学童保育が増えてきた背景には、
児童福祉法に基づき行政から補助金を受けて運営する、
従来型の学童保育が不足している現状もある。
学童保育の待機児童は、自治体が把握しているだけで
全国に約7400人に上る。
前年より約600人減少したが、
学童保育の利用が保育所を利用していた子の
6割程度にとどまり、潜在的な利用ニーズは
もっと高いとの指摘がある。

企業型学童保育の先駆け的存在である
「キッズベースキャンプ」(東京)では、
3、4歳のころから入所予約の申し込みがあるという。
「学童保育が足りない状況で、
保育所入所で苦労した保護者が、
早めに入所を決めたいと考えるのでは」と広報担当者。

放送大学教授(社会福祉学)の松村祥子さんは、
「脱ゆとり教育になり、学童保育の保護者も
学習面での不安を抱えている。
生活の場としての学童保育で
どのように学習支援をするか、検討が必要だ」と指摘する。
高まる需要 施設足りず…人数過多で「大規模化」

児童福祉法に基づく従来型の学童保育は、
特に都市部で不足しており、
多数の児童が集まる「大規模化」などが問題になっている。

横浜市鶴見区の民設民営の学童保育「きつつき学童クラブ」は、
今年は新1年生36人を迎え、
6年生までで計87人。昨年より17人増えた。
建物はプレハブの借家で、広さ約102平方メートル。
全員出席の日は、足の踏み場もない。
トイレが一つしかなく、帰宅前には列ができることもある。

「さすがに人数が多すぎます」。指導員(28)は言う。
連絡帳に目を通す、おやつを準備するといった作業に時間がかかる。
指導員は「子ども一人一人に目を配らないといけない。
毎年行っていた宿泊行事も今年はできるかどうか」と頭を悩ます。
父母会でも現状を憂慮して、
学童クラブの分割なども視野に、
望ましいあり方について話し合いを始めた。

利用児童の増加に伴い、学童保育の大規模化は、
以前から問題視されてきた。
国は2007年に、集団の規模は40人程度までが望ましく、
1施設当たり70人を超えないよう指針を定めている。
広さは1人当たり1・65平方メートル以上が目安だ。

しかし、厚生労働省によると、11年5月の調査で、
全国の学童保育2万561か所のうち、
71人以上の大規模学童は1199か所(5・8%)で、
前年より22か所減るにとどまった。
56~70人の施設が2939か所(14・3%)、
46~55人が3048か所(14・8%)。
全国学童保育連絡協議会の事務局次長、真田祐さんは、
「大規模学童の解消には、
場所の確保や資金の問題がある。
行政からの一層の支援が必要」と訴える。

こうしたなか、政府の「子ども・子育て新システム」に関連して、
児童福祉法の改正案も国会に提案されている。
市区町村が学童保育の設備や運営について
条例で基準を定めることとし、
指導員の人数などについては
国が基準を定めるとしている。
ただし、自治体に実施義務は設けなかった。

淑徳大学教授(子ども家庭福祉)の
柏女霊峰かしわめれいほうさんは、
「運営基準については、
指導員の資格など現行の指針より
踏み込んだ内容にすべきだ」と指摘する。
「保育所の整備が進み、学童保育の利用も一層増えるだろう。
もはや、一部の共働き家庭の問題とはいえない。
社会で子育てをするという観点から
制度を充実させていくことが大切だ」と話す。(小坂佳子)

 学童保育
 共働きなどで日中に親が不在の小学生を放課後、
午後5~7時ぐらいまで預かる事業。
1997年に「放課後児童健全育成事業」という名称で、
児童福祉法に位置づけられた。
国と地方自治体から運営費の補助がある。
実施は市区町村の努力義務にとどまる。
公設公営、公設民営、民設民営のケースがあり、
2011年5月現在、全国に2万561か所、
83万3038人が利用登録している。
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