【日本版コラム】米国でも「専業主婦VS.働く母親」、高額な保育料も背景に


THE WALL STREET JORNAL
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このたびWSJ日本版コラムニストの一員として、
米国の子育て事情などについて書かせていただくことになった。
子連れ在米歴はまだ浅いが、
4歳の息子と2歳の娘とのドタバタな毎日から見えてくる
米国流育児の「今」を、
新参者ならではの視点でお伝えできたらと思っている。

筆者は米テキサス大学オースティン校を卒業後6年間、
東京で記者として働いていたが、
米国人の夫の母国に戻りたいというたっての願いもあり、
2010年末に退職してワイオミング州という
全米で最も人口の少ない州の小さな町に移住した。

母親としては初めての渡米に、
期待と不安が入り混じった気持ちで
空港から新居まで雪以外に何もない道を
4時間近くただただ車で走り続けたのを鮮明に覚えている。

こちらに来てから新しい発見は多々あったが、
特に驚いたのは「専業主婦」をしている
母親が意外にも多いということだ。
映画やドラマの影響かもしれないが、
米国の女性は出産後すぐに仕事に復帰し、
バリバリ働くという勝手なイメージを持っていた。
その一方で、残業や家庭に仕事を持ち込むことはあまりせず、
ワーク・ライフ・バランスを
上手に取っているという印象を持っていた。

しかし、筆者と同じように幼い子供を持つ母親に出会うと、
専業主婦として子育てに専念している人がとても多い。
専業の母親のことを英語で
「stay-at-home mom」と言うが、
自らを略語で「SAHM」と呼ぶ彼女達からは、
選択した生き方への誇りが感じられる。

もちろん、これは米国の片田舎の実情であり、
ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市に行けば
状況は異なるかもしれない。
とはいえ、筆者は今年テキサス州の州都である
オースティンに再び引っ越したが、
ここでもやはり専業主婦をしている母親に出会う機会が多い。

専業主婦と働く母親をめぐる議論は
かねてから続いているが、
先月から再びヒートアップしている。
その発端は、民主党の選挙戦略担当者である
ヒラリー・ローゼン氏が、共和党の大統領候補指名獲得が
確実視されているミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事の
アン夫人について、「人生で1日も働いたことがない」と批判したことだ。
これに対して専業主婦であるアン夫人は、
「私は自ら家にいることを選び、そして5人の子供を育てた。
正直な話、それは大変な仕事」と反撃した。

米国勢調査局が2011年に発表した統計によると、
有配偶で6歳未満の子供を持つ女性のうち
専業主婦はおよそ35%を占めたという。
約3人に1人が子育てに専念しているということだ。
子供の年齢を15歳未満に引き上げると、
その比率は23%に低下する。

出産を機に女性が仕事を離れる理由の1つに、
高額な保育料がある。
米国の保育園は日本のように
福祉の一環と見なされておらず、
完全なサービス業のため日本に比べて
保育料が非常に高い。

州ごとにばらつきがあるだけでなく、
保育時間、保育内容、施設、立地などによって
保育料は大きく異なるが、
子育て支援団体NACCRRAの統計に基づいて算出すると、
保育園を利用する乳児の平均月間保育料は
1人当たり800ドル(約6万5000円)近い。
平均が最も高額なワシントンDC では
1500ドル(約12万円)に跳ね上がる。

筆者の場合、日本で公立の認可保育園に
子供2人を預けていたときと比較して、
支払っている保育料はワイオミング州でおよそ3倍、
テキサス州では4倍に膨れ上がっており、
家計にとって極めて重い負担となっている。

オースティン在住で4歳と1歳の子供を持つある母親は、
1人目を出産後は子供を保育園に預けて
建築士になるため大学に通ったものの、
「2人目を出産したときには景気が悪化して
就職が難しかったうえに、
2人分の保育料を考えたら
働いてもほとんど意味がない。
それなら子供と一緒にいようと思った」と話す。

また、親なら誰しも良質な保育園に
子供を預けたいと思うだろうが、
米国では概して保育料と質が比例する。
州からライセンスを付与された保育園以外にも、
一般家庭を開放したデイケアや個人で
ベビーシッターを雇うなど様々な選択肢はあるが、
安いというだけで選ぶと安全基準や保育内容が
誰からも監督されていない場合が大半で、
子供を安心して預けられるとは言い難い。

公立保育園もあるにはあるのだが、保育の質は高くない。
日本のようにしっかりした保育を
手頃な料金で受けられる保育園を見つけるのは至難の業だ。
「他人が自らの意思で生んだ子供を育てるのに、
なぜ自分の税金が使われなければならないのか」
という苦情が出るためと聞いたこともある。

費用も含め、様々なトレードオフを考慮して
仕事を辞める母親がいる一方で、
育児が一段落してからの再就職が難しいことを理由に、
高額な保育料に悩まされながらも
働き続ける母親がいるのも事実だ。
また、現下のように先行き不透明な経済環境では、
夫婦どちらか一方の収入に
依存するのはリスクが大きいとも言える。

仕事を辞めて子供との時間を最大限に楽しむか、
自らのキャリアや家計のために働くか――。
この議論はこれからも続くことだろう。
しかし、米国のあまりにも「お金がモノを言う」保育制度を
根本から改善しようという動きはあまり見られないように思う。
まずは制度の整備が先ではないかと思うのは、
日本の発達した保育制度を経験してしまったからだろうか。
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