どうなる保育改革 「保活」 親の人生左右


東京新聞
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保育園に入ることができない待機児童を解消して、
子どもを育てやすい社会にしようと、
新しい保育制度が今、国会で議論されている。
その名は「子ども・子育て新システム」。
消費税率引き上げを柱とする社会保障と
税の一体改革の一環だけに、
与野党の駆け引きに揺れているが、
そもそも肝心の中身とは。
少子化を止めて、この国の未来を開くことができるのか。
皆の問題として今、考えたい。

「不承諾…って?」

二〇一一年二月、自宅に届いた書類上の文字に、
東京都足立区の会社員の女性(37)はぼうぜんとした。
前年八月に生まれた長男の区立保育園への入園が認められない-。
外資企業を育児休業中で、新年度から長男を入園させて、
職場復帰するつもりだった。
「夫婦で働き、子育てする普通の家庭を築きたいだけ。
こんなにあっさり、無理って」。怒りに変わった。

危機管理はしていた。区立保育園のように、
都道府県などが設置を認めた「認可保育所」に
入園できない事態に備えて、
出産後から認可外の各種施設十カ所を回った。

待機児童が多く、競争率が高い東京では
「育休を早めに切り上げ、認可外に預けていれば、
入園選考で加点され認可保育所に入りやすい」というのは母親たちの常識。
いずれも三十人ほどのライバルが予約待ちの認可外保育所、
複数に申し込み、長男は結局、その一つに入園した。
二歳までという条件が不安だったが、
今春、認可の私立保育園に転園できた。
会社員の夫(36)と、ほっとした。

「保活」と呼ばれるまでに難関の保育所探し。
苦しんだ女性は、母親仲間と
「保育所つくってネットワーク」をつくった。

「保育園に入れず、正社員だった勤め先を退職した」
「子どもをおろした」「二人目を産む気になれない」。
ネットワークには切実な声が寄せられた。

二人の子を育てる足立区内の女性(36)も
ネットワークでつながった一人だ。
発達障害のある長男(4つ)は私立の認可保育所に通う。
だが、同じ園に申し込んだ十一カ月の長女は今春入園できず、
無認可で利用料も高い小規模保育室に預けた。
この保育室はパート勤務者が対象なので、
女性はフルタイム(全日労働)の仕事を辞めざるを得なかった。
夫は病気で休職し、生活保護を受けている。

「この子を産まなきゃ良かった」。
三月まで新宿区の認可外保育所の園長だった(58)は、
そう言って泣き崩れた母親の姿が忘れられない。
わらにもすがる思いで、入園の可否を問う親たちに会ってきた。
その数は年間百人ほど。
「だれにも頼れず、自分がわがままなんじゃないかと、
自責する親たちを見てきました」

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少子化で子どもは減っているのに、
保育所からはあぶれるという矛盾-。
働く母親が増えるなど、女性の生き方や意識が変化している現状に、
国の施策が対応できていないことの証しだ。
新システムでも、これまでの施策のように、
期待を裏切ることはないだろうか。

「千年後の五月五日のこどもの日は来ない」-。
東北大学の吉田浩教授(加齢経済学)は
今年のこどもの日から、「子ども人口時計」を
インターネット上で表示し始めた。
百秒に一人の速さで子どもが減り、
このままでは千年後にはゼロになる。
「時計の針を少しでも戻せなければ、この国は終わりだ」
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