「子どもの家」大阪市廃止方針に利用者は


朝日新聞
------------------------------------------------
大阪市の市政改革プランの素案に、
廃止が盛り込まれた「子どもの家事業」。
親の育児放棄や経済苦など様々な事情を抱えた
子どもたちにとっての居場所はどうなるのか。
存続を求める陳情書が、署名約2万7千筆と共に
市議会に提出された。
利用者もそれぞれの思いを込めて署名した。
署名は6月末まで続く。

●高校生

「私が泣くのはここでだけ。守られていると安心できるから」。
女子高生(17)は、気持ちがしんどくなると、
西成区の民間児童館「こどもの里」に立ち寄る。
週1回のペース。
「いっぱい充電して、いつもの生活に戻るんです」

最初に里に来た日のことは鮮明に覚えている。

小6の9月。母が睡眠薬を大量に飲んで救急搬送され、
長期入院することになった。
母との2人暮らしで帰る先を失った。
辺りがすっかり暗くなった頃、役所の人が
「近くにいい所がある」と手を引いてくれた。

館長(65)は顔を合わせるなり、「ここに住む?」。
玄関先で即決。安心感から泣き出しそうになった。
荷物を運び込み、11月まで住んだ。

その後もときに情緒の不安定な母と一緒に生きてきた。
いつも支えてくれたのは里だ。
「ここに来て、人のために生きたいと思うようになった」。
ソーシャルワーカーになりたいと考えている。

●支援学校生

「私にとって地元で唯一の居場所」。
市内の特別支援学校に通う女子生徒は
放課後になるとほぼ毎日、
西成区の「山王こどもセンター」に立ち寄る。

支援学校の友人は近所に住んでいないが、
センターなら地元の小学校からの幼なじみに会える。
夜9時まで過ごすこともある。

通い始めて10年。園児から高校生まで
みんなが障害の事情を知っている。
頼まなくても、車いすに移るのを手伝い、
玄関の段差をなくす板も、車いすの
モーター音が聞こえると誰かが出してくれる。

ほかの放課後事業は利用が小学生に限られたり、
開館時間が短かったり。
「障害のある子が健常児の友だちを持つことは難しい。
でもセンターではそれが当たり前。
子どもの家がもっと増えたらいいのにと思う」

 ●母

「ここがなければ家族はバラバラになっていた」。
30歳代の母親は自分の暴力がエスカレートしそうなとき
何度も、2歳の次女をこどもの里に預けてきた。

「愛情がわかない」。悩み始めたのは出産の半年後。
長女はかわいいのに、次女とは一緒にいるだけで息苦しい。
夫がいれば、痕が目立たないよう、わきの下をつねった。
だが不在時は歯止めがきかない。はたいて蹴飛ばす。
頭をつかんで持ち上げたことや、
腕をかんで歯形のあざを作ったこともある。
泣けば、口にタオルを突っ込んだ。

「このままでは殺してしまう」。
どうにもならなくなると感じると里に電話した。
休日でも深夜でも「開いてるよ」と出てくれる。
短くて数日間、長くて2カ月ほど預けた。

児童養護施設に預ければ
次女は長女と同じ保育園に通えなくなり、
面会を制限される可能性も。
里なら同じ保育園に通える。
役所や児童福祉司と相談して
「必要なのはしんどいときに一時的に
次女の子育てから離れること」と判断。
柔軟に対応できる里を「避難所」として頼ってきた。

母親はいま家族全員での生活を取り戻している。
------------------------------------------------