学童 苦しい保護者運営 耐震対応や土地探し…


中日新聞
------------------------------------------------
 共働きや一人親家庭の小学生を放課後に預かる「学童保育」。
8月の児童福祉法改正で運営基準が定められるなどしたが、
市町村の運営責任は盛り込まれなかった。
保護者らが運営する名古屋市内の学童保育では、
土地探しや耐震性による建て替え問題で、
存続が厳しくなる事態に直面している。 (福沢英里)

 「広さも十分だし公園の前にあり、
子どもたちが放課後を過ごすのにぴったりの環境なのに…」。
学童保育所として利用する予定だった名古屋市内の民家の前で、
保護者の男性は表情を曇らせた。

 男性らは現在、プレハブ施設で学童保育を運営するが
昨秋、来年末までに土地を明け渡すよう地主から求められた。
休み返上で土地を探し、ようやく七月に二階建て民家を探し当てた。

 学童OBの協力で格安で賃借契約を取り付けたが、問題が発覚。
五月に市の助成要件が変わり、借家を新たに契約する場合、
一九八一年導入の新耐震基準を満たした建物であることが、
助成要件に加わったからだ。
耐震診断の結果、この民家は基準を満たしていなかった。
「名古屋市が求める基準は新築住宅並み。
財源が乏しい中、すぐに建て替えなんてできない。
市が耐震改修の補助を出してくれるなど、何か手だてはないか」と男性。
今月末までに結論を出さないと存続が難しくなるという。

     ◇

 名古屋市は放課後の児童の受け皿として、
学校の空き教室などを利用した「トワイライトスクール」を進める。
ただ、子どもらの放課後の生活を充実させたいと考える
保護者らは、自ら学童保育を運営。
四月現在で、市内に百六十四カ所の学童がある。
土地探しや日常の運営は、すべて自分たちで行う。
民家の場合は市から家賃補助があり、土地のみの場合は、
市がプレハブを用意して建てる。
土地探しは、隣接する地域住民の
理解を求める必要もあり、容易ではない。

 地主が今春亡くなり、立ち退かざるをえなくなった別の学童のケースも。
親族の好意で別の土地を無償で貸してもらえることになったが、
プレハブ二軒を隣接して建てている現状と
同様にするなら、地盤調査をするよう市から言われた。

 業者の地盤調査で地盤改良工事が必要と分かり、
三百万円の見積額を提示された。
「前例がないという理由で市に工事費を負担してもらえず、
自前で用意するしかない」と保護者。
地盤改良前の整地だけでも四百万~五百万円が
必要となるため結論は出ず、話が止まっている。
市は「学童保育は必要だが、補助事業にすぎず、
市が計画的に増やしたり、充実させることは難しい」との姿勢だ。

     ◇

 名古屋市と同様、保護者らが運営する
学童保育中心の横浜市や大阪市も状況は厳しい。
横浜市では保護者所有の建物の場合、
市が耐震改修の費用を補助する制度はあるが、借家の場合はなし。
大阪市は助成要件に耐震性は問わず、
「耐震性の問題は実施者側の責任」としている。

 学童指導員の経験がある静岡大の
石原剛志教授(児童福祉)は「土地の立ち退き問題などは、
保護者が運営する学童の限界が出ている。
児童が安心して放課後を過ごす権利を保障するには、
公的な責任と援助が不可欠」と指摘する。
◆市町村の責任は従来通り

 学童保育所は、「放課後児童クラブ」「学童クラブ」
「留守家庭児童育成会」などとも呼ばれる。
全国学童保育連絡協議会(東京)によると、
全国に二万八百四十三カ所あり、
八十四万六千九百十九人の児童が利用する
(二〇一二年五月現在)。
全国的には、自治体が学校の敷地内で運営する
公設公営が多く、民設民営は二割に満たない。
国と地方自治体の助成がある。

 学童保育は、一九九七年に児童福祉法で
「放課後児童健全育成事業」と位置付けられたが、
国のガイドラインはあっても法的拘束力はなかった。
今回の法改正で、指導員やその数は、
国の基準に従い市町村が条例で基準を定めることを義務付けた。
ただ、市町村の運営責任は従来通り、
「利用の促進に努めなければならない」
という表現にとどまっている。
------------------------------------------------
保育士新卒 新卒情報 保育士転職