ひまわりが咲く日:児童虐待を追う 桜井・餓死事件/4 髪を抜き食べる2歳児 /奈良

毎日jp
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 ◇1人だと「不安」本能で表す

 頭頂部の髪が薄い2歳の女児がいた。
県内のある乳児院。すやすやと眠る数人の乳幼児の中で、
ひときわ目立っていた。

 1人になると髪の毛をつかんで抜き、食べてしまう。
それが原因だった。
両親は知的レベルが低く、生活保護を受給。
女児をきちんと養育できず、面会に一度も来ていない。

 本人はネグレクト(育児放棄)という
虐待を受けていたことは分かっていないだろう。
それでも本能的な行動が「不安な心」を表す。
小さくかわいい頭に残る無残な状態。いたたまれなかった。

 10年3月、桜井市で餓死した男児(当時5歳7カ月)の妹は、
現在5歳10カ月。一時は施設で暮らしていた。
児童養護施設や乳児院では、
心身に傷を抱えた子供たちが生活する。
県内の複数の施設を訪れ、子供たちの思いに触れた。
 ◇施設と「家」の間で複雑な思い吐露

 施設の一室からハローキティのスエットをはいた
高校1年の女の子が、目をこすりながら出てきた。
試験期間中のため学校が早く終わり、寝ていたという。
「こんにちは」と声を掛けると、照れ笑いを浮かべた。

 母親からネグレクトや身体的な虐待を受け、5年前から入所。
当時、学校は休みがちで、
顔にあざを作って登校することもあった。
同居していた父親は母親の顔色をうかがい、
虐待を止めることはなかった。

 数年前のクリスマスに、施設からもらった
ハローキティのぬいぐるみが「宝物」とうれしそうに教えてくれた。
しかし、母親に話が及ぶと、表情は一変。
「嫌い」と吐き捨てた。父親は「分かんない…」。
そして「家に帰るくらいなら、ここにいる方がいい」。
理由を聞くと、押し黙った。悲しそうでもあり、
怒っているようにも見えた。

 一方、「家に帰りたい」と願う子もいる。
漫画や自伝が並ぶ図書室で、
ポータブルゲーム機で遊んでいた小学3年の男の子。
両親のネグレクトで4年前に入所した。
父親が仕事を失い、住居が定まらない中、
家族5人で暮らしていた。
幼稚園に通わず、食事もまともにしていなかったところを保護された。
歯は何本も失われ、残った歯も虫歯だらけ。
父親は再就職したが引き取られていない。
「お父さんに買ってもらってん」。
ゲーム機の画面をのぞき込む子供たちに囲まれながら、自慢した。
「『家』は狭いけど、みんながいたから楽しかった。帰りたい」。
今は、親が面会に来る日曜日を毎週、楽しみにしている。

 学ラン姿の高校1年の男の子も
「やっぱり家がええな。落ち着くから」と言葉少なにつぶやいた。
父親が再婚した養母が養育を放棄し、
小学生のころから施設で暮らす。
両親に家に帰りたいと伝えているが、
何かと理由をつけて拒まれ続けている。
それでも家に帰りたいとの気持ちは強い。
 ◇残された幼い妹、継続的支援必要

 ある施設長は「入所児童の約7割が虐待されている。
小さなすれ違いから親子関係が崩れ、虐待につながる。
子供の数だけ問題があり、問題が入り交じっているから
答えがなかなか見つからない」と話す。

 桜井市の餓死事件を知る別の施設長は、
男児の妹について「心配なのは今後。
事件のことをどう知り、知った時に周りがどう支えてあげられるか。
母親が(刑務所から)帰ってきた時に、
母子関係をどう築いていくか。
継続的な支援が必要だと思う」と指摘した。

 今年7月、田原本町で1歳3カ月の長女が母親に殴られ、
8月に死亡する事件が起こった。
桜井市の餓死事件を受け、
行政が再発防止の取り組みを進める中での悲劇。
新たな課題が浮かび上がった。(この項つづく)【岡奈津希】

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