保育所の最低面積60年以上改定なし 保護者ら「もっと広く」


中日新聞
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 子どもの成長や発達のため、
保育所面積の拡大を望む現場や保護者の声が根強い。
面積の最低基準は戦後六十年以上も変わらず、
日本の現状は先進国との比較では最低だ。
待機児童解消に向けて、今年四月からは
一部の自治体で基準を狭くできるようになり、
関係者は危機感を強めている。 (稲熊美樹)

 木がふんだんに使われ、窓があって開放的な雰囲気の部屋。
愛知県春日井市の認可保育所「天使みつばち保育園」は、
子どもたちが過ごす時間の長い部屋で、
国の基準を上回る面積を確保した。
ゼロ歳児や一歳児の部屋は、
食事やおむつ替えを同じ部屋でも別々のスペースでできるよう、
少し広めに確保している。
安田加津子園長は「保育所は子どもたちの生活の場。
部屋にはこだわった」と話す。

 保育所の面積基準は一九四八(昭和二十三)年に国が定めた
「児童福祉施設最低基準」で、
自分で動くことのできない子(ゼロ歳児の一部)は
一人当たり一・六五平方メートル以上、
はいはいができるようになったゼロ、
一歳児は三・三平方メートル以上とされた。
この面積は廊下やロッカーも含み、保育士の人数は計算外。

 研究者や現場の保育士らでつくる
「保育所最低基準条例化研究会」は、
十月にまとめた提言で「狭い部屋ではけがが増える」と警鐘を鳴らす。
同会事務局長の中村強士・日本福祉大准教授は
「今の基準は最低の最低」と表現する。

 厚労省の委託で二〇〇九年、
保育所の環境を調べた日本女子大の定行(さだゆき)まり子教授らは、
保育所では食事と昼寝は特に大切な行為で、
「他者に行為が中断されない『食寝分離』の環境が必要」と提言。
二歳未満児は食事と昼寝のために
一人当たり四・一一平方メートル以上必要で、
これに遊ぶための面積を加算するべきだと結論付けた。
ただ、現在も政策には反映されていない。

 この調査によると米英仏独、スウェーデン、ニュージーランドの
六カ国との比較では、日本の三歳児以上の
一人当たりの面積は最低で、約二平方メートルしかなく、
ストックホルムの三分の一以下だ。
子どもの権利に詳しい愛知県立大の望月彰教授は、
保育所の面積は「憲法が定める生存権や教育を受ける権利、
幸福追求権にもかかわる問題」と指摘。
「最低基準は戦後の混乱期にやむを得ず決めたもの。
文化的な生活を送るためには低すぎる。
三倍くらいは必要だ」と話している。
◆一部の自治体独自に基準

 これまで国が一律に定めてきた最低基準は、
地方分権一括法の施行で都道府県と政令市、
中核市が来年三月までに条例で定めることになった。
面積は「国の基準に従うべきだ」とされるが、
待機児童が百人以上で地価が高い三十五市区(二〇一二年度)は
一五年三月までに限り、基準を下回ることができる。

 大阪市は従来、一人当たりゼロ歳児は五平方メートル、
一歳児は三・三平方メートルが基準だったが、
今年四月から三年間、ゼロ、一歳児ともに
一・六五平方メートルにできるとした。
しかし、市の担当者は「一・六五は究極の数値。
(園側は慎重で)そこまで踏み切った受け入れはしていない」といい、
待機児童の減少につながっていないという。
東京都も独自の「認証保育所」で、
年度途中であれば、はいはいをするゼロ、
一歳児は一人当たり二・五平方メートルとできる基準があり、
認可保育所も同じにする。

 また、これまでは自治体ごとに
基準の運用にばらつきがあったため、
厚生労働省は昨年十月、通知で省令の解釈を明確化。
愛知県は「ゼロ、一歳児は一律に
一・六五平方メートル」としており、
県内の四十八保育所で、はいはいをする子の基準
(三・三平方メートル)を下回っていることが分かった。
今後、県は改善していく方針だ。
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