幼児 けんかで成長

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 園庭で、きりん組(4歳児)の子どもたちが遊んでいた。
キックスケーターを乗り回す大柄な康一君(仮名)に、
何度も「貸して」と食い下がり、
そのたびに突き飛ばされるのは細身の俊太郎君(同)だ。

 やっと譲ってもらい、満面の笑みで走り出すと、
見守っていた男性保育士(31)が「良かったなぁ」と声をかけ、
康一君には「貸してあげたんや」と頭をなでた。

 大阪府熊取町のつばさ共同保育園では、
園児のけんかをできるだけ見守るのが保育方針だ。
市原悟子よしこ園長(59)は
「けんかやぶつかり合いは成長のチャンス。
大人が『そろそろ交代ね』と間に入ると、
守られる側とたしなめられる側になり、
子どもの人間関係がおかしくなる」と解説した。

 この保育方針は、姉妹園のアトム共同保育園が
1994年、いじめや少年犯罪の事件が相次いだため、
保護者と考えて決めたものを受け継いだ。
両園の理事長でもある市原園長は
「幼児期に人間関係に悩む体験をすることが重要だ。
問題を起こす子どもには、
こうした体験が抜け落ちていると感じた」と振り返る。

 気の済むまでやらせて考えさせたり、
お互いの気持ちが分かるまで2人きりで話し合わせたり、
手探りの連続だった。
「仲良くしたいのにたたいてしまう」
「本当は一緒に遊びたい」。
園児の悩みに耳を傾ける様子がメディアで紹介されると、
全国の保育関係者が見学に来るようになった。

 子どもがもめ事を起こす理由は、
大人が考えたのとまったく違うことが少なくない。

 ある時期、ぞう組(5歳児)で、
遊びの輪に入ろうとした麻里ちゃん(仮名)が、
断られて泣き出すことが増えていた。
大野京子保育士(34)が「なんでいやなの?」と促すと、
麻里ちゃんは「断られるより、
みんなに一斉に言われるのが悲しい」と話し始めた。

 女の子たちは、涙の理由を知って神妙な表情になり、
「これからは1人ずつ話すようにするね」と約束。
以後、言葉に気遣いが生まれ、トラブルは減っていった。
「入れてあげなさいと叱ったのでは、
同じようなけんかを繰り返したでしょう」
と大野保育士は説明する。

 市原園長は強調する。

 「互いの気持ちが分かればいじめに発展することはない。
いじめ予防は幼児期に始まっているのです」(大広悠子)

 メモ 共同保育園とは、保護者と保育士が
協力して運営する保育園のこと。
保育園が不足した1960~70年代に、
保護者が資金を出し合って
保育士を雇う形で始まったケースが多く、
当時はほとんどが「無認可園」だった。
その後「認可園」になったところもある。
現在でも父母会活動が盛んで、
保護者の意見が園の運営方針に積極的に反映されている。
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