子どもの食物アレルギー


長崎新聞
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 卵や牛乳など特定のものを食べると、
じんましんや呼吸困難といった症状を引き起こす食物アレルギー。
近年は子どもに増えているといわれる。
原因食材(アレルゲン)を誤って摂取すると
重篤な症状に陥る恐れもある。
しかし社会に広く認識されているかは疑問だ。
人知れず悩みや負担を抱える保護者に話を聞き、
リスクや課題を探った。

▽一時意識不明に

 10月のある日。
長崎市に住む3歳の男児は救急車の中で意識を失っていた。
親族宅で母親(30)が目を離した隙に
乳製品を飲んでいたためだ。
直後から大量の嘔吐(おうと)が続き、
みるみる顔は紅潮、唇は青紫に変わった。
「アナフィラキシー」と呼ばれる急性のアレルギー反応だった。

 大量に吐き出したためか、
病院に着く直前に呼び掛けに反応するようになり、
その後快方に向かった。それでも母親はショックを隠せない。
「ここまで体が反応してしまうとは」

 食物アレルギーは免疫を介して起こる。
免疫はウイルスや細菌などの病原体が
体に侵入したときに異物と認識し、
防御しようとする生体の働きだが、
食べ物も異物ととらえ過剰反応するのが食物アレルギーだ。
症状はじんましんや唇のむくみ、下痢、嘔吐など幅広い。
呼吸困難や血圧低下、意識障害などが出る
アナフィラキシーショックは命を奪う恐れもある。

 男児を脅かすアレルゲンは卵や乳、イカ、タコ、
エビ、カニ、貝類など多岐にわたる。
生後5カ月から1年半ほどの間に
次々と食物アレルギーの診断が付いた。

▽同じ給食は無理

 母親は毎日の食事に細かく神経を使う。
母乳を与える期間は問題となる食材を口にしなかった。
たまにケーキを食べたいと思ったが、
わが子のためにと我慢した。
離乳食を始めた1歳から、買い物では
包装の裏面を見てアレルギーを起こす
原材料が含まれていないか、くまなく表示を調べる。
しだいにそれらのほとんどは食卓から消えた。
栄養は男児が食べられる小魚のつくだ煮や
豆乳などで補っている。

 男児は保育園に通っているが、
ほかの園児と同じ給食を食べられない。
母親は原因食材の完全除去を園に頼んでいる。
ただ、園から事前にもらう献立表を見ても
材料が分からない日がある。
おやつが男児だけ4日間連続同じだったことも。
「みんなのホットケーキを食べたい」。
幼いながら我慢してきた
息子の本音を聞くと涙が止まらなかった。

 園内で誤ってアレルギー物質を含んだ
食べ物を口にしたこともあった。
1、2回は起きうると覚悟していたが、
園からの連絡が遅く不満も残った。
しかし「うちで預かれません」と言われるのも怖い。
「本音を言えない親はほかにもいると思う」
と複雑な胸の内をにじませる。

▽外食では戸惑い

 食品表示を確かめられる買い物と異なり、
外食では戸惑うこともある。
1年ほど前、大手チェーンの飲食店で
注文の際に原材料を店員に尋ねると
「分からないので店のホームページを見てください」と言われた。
不親切に思えた。世の中にもっと
アレルギーに関する表示が増えてほしい。

 周囲から「食べさせれば治るさ」と言われるときもある。
しかし、食物アレルギーは根本的な
治療法が確立されておらず、そうした安易な言葉に傷つく。

 「皆が皆アレルギーを理解するのは難しいけれど、
何でも食べられるのが普通と思わないでほしい。
お菓子をあげるときに、食べさせていいものか
親に聞くなど配慮があってもいいのではないか」。
母親はそう投げ掛けた。

◎近年増加 小中学生で3.7%

 県内の子どもたちの食物アレルギーの現状や
現場での対応について、データや医療、
給食対応、食品表示などの観点から分析した。

 県教委が公立小中学校の児童生徒を対象にした調査では、
食物アレルギーの子は2005年度の2・6%から
昨年度は3・7%に増えた=グラフ1参照=。
原因食材は卵が34%と最も多く、
エビ・カニなど甲殻類が18%、
牛乳・乳製品が16%と続いた=グラフ2参照=。

 日本アレルギー学会専門医で
長崎大学病院小児科の橋本邦生氏(35)は
増加の要因について「明確に分かっていないが、
衛生環境が良くなり食物に対する
過敏性を持つ人が増え、アレルギーへの認識も進み
診断される人も多くなった」とみる。
一方で「乳幼児期に発症した食物アレルギーの原因食材は、
成長とともに食べられるようになるケースが多い」と指摘する。

 同病院は詳細な問診や皮膚・血液の検査、
疑いのある食材を食べさせ症状を観察する
負荷試験などで総合的に判断。
除去する食品を絞り込む。
根本的な治療法や薬はないが、
負荷試験で安全性が確認された量から
段階的に食べさせると耐性が付きやすいケースもあり、
医師の指導の下で進めている。

 県などによると、学校や保育園では、
原則的に原因食材を除いたメニューを提供している。
長崎市立の小中学校では、
保護者に原因食材を示した書面や
医師の指示書を出してもらい対応する。
ただ、大釜で大量に料理を作る調理施設の構造上、
代替食は提供できていない。
諫早市や壱岐市の学校給食センターには
食物アレルギーに対応した専用調理室があるが、
こうした環境が県内全域に行き届くのは
時間がかかりそうだ。

 食品の中に原因食材が含まれているか知ることは、
食物アレルギーの人にとって命綱となる。
2001年から加工食品のアレルギー表示制度が始まり、
卵や乳、小麦など7品目の表示は義務化され、
アワビやイカ、牛肉、サバ、リンゴなど
18品目も表示が勧められている。それでも懸念はある。
県の昨年度の調査で市場に出回った
餅菓子20品のうち、3品に表示のない
小麦が混ざっていたことが判明。
製造業者に器具の選別や洗浄の徹底を求めた。

 社会に守る動きが広まらなければ、安全度は高まらない。
橋本氏は「医療や教育に限らず、
食に関わる人や企業が情報交換を進め、
アレルギーの情報を得やすい
社会環境をつくることが大切だ」と訴える。

 長崎市は毎月第2火曜(次回は1月8日)に
食物アレルギーの子を持つ親が集う座談会を開く。
市こども健康課は「一人で悩む保護者の孤立感や
不安を和らげたい」としている。
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