保育士不足、待遇改善が鍵 補正予算、効果どこまで 「潜在」掘り起こし 知恵絞るが……


西日本新聞
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 待機児童が減らず、保育所の増設や定員増が求められる中、
保育士不足に悩む自治体が増えている。
背景には、保育士の厳しい労働環境に
見合わない待遇の問題がある。
そこで厚生労働省は、2012年度補正予算に
保育士確保費として438億円を盛り込み、
賃金アップなどに取り組む方針だ。
しかし、もともとの水準が低すぎて、
保育現場からは効果を疑問視する声も出ている。

 「せっかくの資格をやりがいのある仕事に生かしましょう」。
講師の呼び掛けに約10人の参加者が深くうなずいた。
昨年12月、九州各県で待機児童が
最も多い福岡県内で開かれた復職支援研修会。
資格を持ちながら働いていない「潜在保育士」を対象に、
県保育協会などが11年から20回以上実施している。

 開催のきっかけは「求人しても応募がなく、
子どもの受け入れを断らざるを得なかった」
という園長たちの声だった。
国の基準で園児数に対する保育士の数は決められており、
待機児童を受け入れるには保育士も増やす必要がある。

 県によると、県内の保育士登録は約5万人で、
うち3万人ほどが「潜在」と推定される。
研修会には11年度、30~50代を中心に約130人が参加し、
4割が再就職に結び付いた。
県も13年度に保育所と復職希望者をつなぐ
コーディネーターを設け、現場復帰を後押しする方針。
それでも「人材確保への道程は険しい」
(県保育協会)のが実情だ。

 保育士不足に悩むのは福岡県だけではない。
厚労省が11年度に待機児童の多い地域を中心に行った
調査では、130自治体の約8割が「不足」と回答。
早期離職や保育科の新卒者が民間企業に
就職するケースも多く、5年後には7万人以上の
不足を予想している。

 背景の一つに、園児がいる間は休憩も取れないなど
肉体的にもハードな労働条件なのに、
それに見合わない待遇面の課題がある。

 熊本県内の女性保育士(22)は
昨年、結婚と同時に2年間勤めた
私立認可保育所を退職した。
残業代はなく、書類作成などは毎日持ち帰る。
休日は発表会の衣装作りなどに追われた。
それでも給料は手取り15万円程度。
実家暮らしなので何とかやっていけたが、
昇給の見通しも立たない。
職場の保育士は全員が20代~30代前半の独身。
「結婚後のキャリアが描けなかった」と振り返る。

 国の賃金構造基本統計調査(11年)によると、
民間保育士の平均給与は月額約22万円。
全職業平均の約32万円とは10万円の格差がある。
そこで厚労省は補正予算で4月から、
最大160万円の学費を貸し付け、
保育士として5年間働けば返済を免除する制度を創設。
私立保育所の保育士給与を引き上げることも決めた。

 厚労省は勤続年数に応じて
最大1万円上乗せされると試算する。
しかし「10万円の格差」を埋めるにはほど遠く、
福岡県内にある私立認可保育所の園長も
「人件費が全体の運営費の7割程度。
多い園では8割を超える。
補助金が大幅に増えない限り、給与アップは難しい」と話す。

 そこで人件費を抑えつつ保育士を増やそうと、
非正規雇用に頼る保育所が目立ってきている。
全国保育協議会(東京)が
全国にある認可保育所の約3分の1から
回答を得た調査(11年度)によると、
8割以上が非正規を配置していた。

 長時間保育などニーズの多様化に対応でき、
短時間パートの方が働きやすいという保育士もいる。
半面、非正規の給与水準はさらに低く、
雇用条件も不安定になる。

 「保育園を考える親の会」(東京)で
代表を務める普光院亜紀さんは
「保育の質は人材にかかっている。
保育士自身も経験を積みながら成長できるように、
安心して働き続けられる仕組みが必要だ」と話している。
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