増える子供の肥満 安心な遊び場 確保急ぐ 屋内施設、体験学習に力


日本経済新聞
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 東京電力福島第1原子力発電所の事故で、
福島県では住民の避難生活が長期化している。
事故で拡散した放射性物質の影響で
屋外活動を控えて肥満の子供が増えたり、
高齢者が体調を崩して命を落とす
「震災関連死」が報告されたりしている。
福島県は健康の改善に向けて取り組みを急ぐ。

 福島県に住む子供の肥満が明らかになったのは、
文部科学省が2012年12月に公表した
学校保健統計調査速報。
都道府県別に12年4~6月時点で
肥満児がどれだけ占めるかを調べたところ、
福島は5~17歳のすべての年齢で
全国平均を上回ったほか、7つの年齢で1位となった。
特に小学校低学年で肥満が目立ち、
全国平均の約2倍に達した。

運動量減少響く

 福島県健康教育課は
「放射能を恐れて屋外活動などの制限による
運動量の減少や、東日本大震災後の環境変化による
生活習慣の乱れなどが原因だ」と分析する。
降雪が多い北海道や東北地方の子供は、
震災前から肥満の傾向が続いていたが、
7つもの年齢で肥満度がトップになったのは初めて。
同じ震災の被災地である
宮城県や岩手県に比べても目立って増えている。

 11年3月の福島第1原発事故で
大量の放射性物質が周辺に放出されて以来、
県内では子供らの屋外活動を制限する動きが相次いでいる。
小中学校の体育の授業では
校庭の活動を取りやめて体育館だけに制限したり、
幼稚園では屋外にある砂場の遊びを中止したりした。

 避難を強いられた18歳未満の子供は
原発周辺地域を中心に、昨年10月時点でも
まだ約3万人もいる。
慣れない避難所生活が続いたほか、
仮設住宅に移ってからも友達を失って
体を動かす機会が奪われたと専門家は分析する。

 運動しないまま成長すると健康にも問題が起きかねない。
菊池医院(福島県郡山市)の
小児科医、菊池信太郎副院長は
「基礎体力や運動能力の土台がないまま、
運動の最適年齢を迎えてしまう」と指摘する。
運動の最適年齢は9~15歳で、
ゴールデンエイジとも呼ばれる。
子供の体が大人へ成長する時期で最も体力がつく年齢だ。
菊池副院長は「運動せず肥満になれば、
生活習慣病になる可能性も高くなる」と危惧する。

 こうした懸念を減らすため、
福島県内では子供が運動できる機会を増やす
取り組みが進んでいる。
その一つが屋内遊び場の建設だ。

 郡山駅から歩いて約10分の「ペップキッズこおりやま」。
約2千平方メートルの敷地内にボールプールや
ランニングコース、水遊びのできる砂場などが並ぶ。
屋内遊び場としては東北地方で最大の規模だ。

 生後6カ月から12歳が対象で無料で利用できる。
昨年12月に開所し、週末には1000人を超える子供が訪れる。
時間待ちになる日もある。
3人の子供を連れてきた30代の母親は
「近くの公園では除染が進んでいないので不安が多い。
まだ肥満にはなっていないが、運動不足が心配だ」と話す。

 放射線量の低下に伴い、学校での屋外活動の制限は
解除されつつあるが、子育てに不安を抱える親は多い。
屋内遊び場のニーズはかなり高い。
県内ではこうした屋内の遊び場が自治体から
補助を受けた施設だけでも38カ所ある。
今後も増える見込みだ。

 放射線量が比較的低い場所に移動して
運動する機会を増やす取り組みも進む。
福島県は、県内の小中学生らを対象に
会津地域などでの体験学習に力を入れる。
事故から間もない11年7月から始め、
延べ30万人以上の子供が参加した。

 県はさらに専門家から子育ての
総合的な助言をもらうため、
研究者らで組織する「こども環境学会」と
包括的に連携する協定を今月結んだ。
保育園や学童クラブなどで
最適な遊び方などを提言してもらう予定だ。

心のサポート重要

 同学会評議員の笠間浩幸同志社女子大学教授は
「福島県は放射能によるストレスがあり、
子育ての総合的な支援が欠かせない」と指摘する。
子育てには遊びの空間と時間、生活の仕方、
共同体(コミュニティー)などが欠かせない。
笠間教授は「大人から見守られながら育ったという実感が
子供の成長にとっては大切だ」と話す。

 福島県は屋内遊び場などの施設整備だけでなく、
精神的なサポートにも力を入れている。
原発事故という逆境をバネに、
子育て支援を他県より充実して
「日本一安心して子育てしやすい県づくり」
を実現しようとしている。
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