【家族を救え 児童虐待はいま】大人に不信 施設でも


朝日新聞
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◆わざと暴言・暴力

 初めて会った中学1年の少年は
顔をこわばらせ、びくびくしていた。
2000年8月、藤沢市の児童養護施設「聖園子供の家」。
職員の疋田哲也さん(55)には、
心にバリアーを張っているように見えた。

 少年は3人兄弟の次男。
両親が離婚し、スーパーに勤める父と4人で暮らしていた。
99年、父が20代の女性と再婚した。
しかし5歳上の兄は義母と折り合いが悪く、
まもなく家を出た。

 直後から義母の暴力が始まった。
少年は下校後、父が帰宅するまで毎日、
数カ月にわたって木刀で殴られたり、首を絞められたりした。
家のドアを開けると、
決まって帰宅の早い6歳下の弟が殴られていた。

 中学校や小学校の通報で、少年と弟は
児童相談所に一時保護され、2人は2カ月後に施設に移った。
施設では過去を話さなくても、同じような経験をした
子どもたちと痛みを感じあえた。
友人ができた少年は疋田さんにも心を開いた。

 児童養護施設では、家庭の事情で養育できない
児童や虐待を受けた児童らが生活している。
心が深く傷ついた子どもの養育は難しい。
園長となった疋田さんにも苦い思い出がいくつもある。

 10年以上前、親が離婚して施設にきた5歳の少女がいた。
母は「一緒に暮らそう」と少女に連絡してきた。
だが、迎えにくる直前に覚醒剤で逮捕。
そんなことが2度続き、よ
うやく一緒に暮らし始めた矢先に3度目の逮捕となった。

 大人への不信感を募らせた少女は、
施設内で暴力や暴言を繰り返した。
より手のかかる子が入所する
児童自立支援施設などを転々とし、援助交際に走るなど、
今も不安定な暮らしをしていると聞く。

 「親に何度も裏切られるのも心理的虐待。
心の傷が大きすぎて救えなかった」

◆「幸せ」慕われ力に

 虐待を受けた子供の多くは、
信用できるかどうか見極めるため、
暴言や暴力で職員を困らせる。
悩み、辞める職員も少なくない。
人手不足で厳しい職場だ。

 だが、施設を出てからも慕ってくれる子は多い。
義母の虐待に傷ついた少年も、
中学卒業と同時に退所したあとも、
結婚を決めたときや、子どもができたときに報告にきた。
25歳になった昨年10月、久しぶりに施設を訪れた少年は、
空調工事の仕事で妻子3人を養っていた。
「今は本当に幸せ。自分が欲しかった家庭をつくりたい」。
疋田さんは、次の家族に向き合う力がわいた。

 厚生労働省によると、保護の必要な児童は
約4万7千人(昨年10月)。
うち9割は児童養護施設や乳児院などに入っている。
県社協の児童福祉協議会によると、
県内では30の児童養護施設に計1546人(同)が暮らす。
鶴飼一晴会長は「虐待された子が
6割を超えるのでは」と話す。
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