《14》 米国保育所事情―保育料のレベルはなぜ違う


apital
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最近、日本では保育所に子供を入れられない親たちが、
自治体などに改善を求める運動が広がっています。
ところで米国の普通の保育所の保育料、
乳児だと月20万円前後するのをご存知ですか。

「子供を預けたいなら、生まれる前から
保育所に予約入れておいたほうがいいよ」。
渡米まもないころ、ボストンの研究者仲間から
そう助言を受けてました。
入所希望者が多いため、なかなか入れないそうです。
日本も米国も事情は同じなのだと思いましたが、
その保育料を聞いて、愕然としました。
「え? 保育料の相場、月2000ドル
(約19万円)もするの?」

冗談かと思って、家や大学院に近い
主な保育所の料金を調べてみました。
米国では産休明けの生後3ヶ月から
預かるところが多いですが、日本の認可保育所なら、
所得別の保育料は高くても6万円前後が相場。
一方、ボストン周辺では月曜日から金曜日までの
週5日預ける場合の料金で、乳児だと1800~2000ドルが相場。
週3日というコースでも1000ドル(約9万5千円)は軽く超えます。
「日本の大学の授業料より高いじゃないの」
と、驚きました。

そんな保育料、休職して奨学金だけで
やりくりしている我が家では到底払えません。
入所待ちのリストに載る以前の問題です。
保育所以外にも、資格を持った個人が
自宅などで0歳児から4~10人程度をみる
「ホームデイケア」という託児所もあって、
料金も保育所よりずっと安くなりますが、
広くはない自宅でみるのですから、
サービスもそれなり、です。

ということで、施設に預けるのはあきらめました。
研究に復帰する4月以降の段取りについては、
夫と相談し、英語学校の授業や
大学の授業の聴講のために夫が外出する午前中は、
主に私が息子の世話をし、昼ご飯後に交代、
午後は私が講義や取材、調べものに行く、
もし2人の用事がかぶるようならベビーシッターを頼もう――
というスケジュールで、とりあえずやってみることにしました。

それにしても、なぜ日米で保育料がこんなに違うのでしょうか。
保育所の運営コストに税金が投入されているかどうかに
尽きると思います。
国や都道府県、市区町村からの財源と
利用者からの保育料で、保育所を運営する
コストを負担しあっている日本の認可保育所。
かたや米国は一部の低所得者を除き、
国や州、市町村からの助成はありません。
その結果、保育所の運営にかかるコスト
を利用者がほぼ全額かぶる仕組みになっているわけです。

この話を近所の英会話教室の女性の先生に話してみました。
「子供を生むことは個人の意思による選択と思われているから、
そういうことに税金を使うのはおかしいと
思っている人も少なくないわ」と言われ、少し驚きました。
自治体など公的な部門に「保育所の増設を」と
訴えている日本の場合、前提として税金で
託児サービスをまわすのが「当たり前」。
ですが、米国では個人で何とかするのが、
基本だというのです。

実際、保育所に通う経済的な余裕のない家庭は、
どうやって子育てしているのでしょう。
仕事をやめたくない人は、給料の大半が
保育料に消えるのを覚悟で保育所に預けながら
仕事を続ける人もいれば、
子供が小さいうちは仕事をやめて
専業主婦になっている女性も多いそうです。
ちなみに英会話教室の先生の兄夫婦の場合、
障害者福祉の仕事を愛してやまない妻の気持ちを
お兄さんが尊重した結果(収入の面もあったと思いますが)、
お兄さんが仕事をやめ、専業主夫になって
育児に専念しているそうです。

先生自身、毎週水曜日は3人の子持ちの友人宅を訪ね、
子供たちの遊び相手をボランティアでやっているそうです。
また、広い家に住んでいれば、
空き部屋に若い留学生に住んでもらい、
部屋代をただにする代わりに仕事をしている間の
子供の世話をしてもらっている家族もいるそうです。

保育所にまつわる話を聞くうち、
私の渡米前のある体験を思い出しました。
渡米間近の昨年6~7月、ボストン周辺の
部屋探しをしていたときのことです。
ボストンは家賃が非常に高く、夫婦2人で住むには
月1800ドル(約19万円)前後はかかります。
そこで、だめもとでネットの無料掲示板
「クレイグスリスト」に「夫婦2人で住める部屋はないですか。
月900ドルくらいだと助かります」と、広告を出しました。
するといくつかオファーが来たのですが、
非常に興味深いものが2件ありました。

1件目は、大学院から徒歩圏内にある
3階建てタウンハウスの1階部分(浴槽・トイレ付き)を
光熱費・無線LAN込みで月700ドル。
市価の半値以下です。
2件目は、同様に徒歩圏内で、
一軒家の2階部分をただで、という話でした。

もちろん、安いなり、ただなりの訳はあります。
1件目は、6歳の小学1年生の息子がいる
シングルマザーの医師でした。
自分が残業で遅くなる時に
学校に息子を迎えに行ったり、
家のちょっとした掃除をしてもらったりなど、
月20時間ほどを家の用事をしてもらいたいということでした。
2件目は、80歳を過ぎた
1人暮らしのおばあさんがいる孫娘から。
朝夕にヘルパーを入れているが、
ヘルパーが休みの時の簡単な身の回りのサポートや
夜のちょっとした見守りや緊急時の連絡、
郵便の確認や支払いの管理などをお願いしたいとのこと。

私はこれを機会にアメリカの地域社会って
どんなんだろうと、チャンスがあれば
少しでもり込みたいと思っていましたから、
大いに乗り気になりました。逆に夫は苦い顔。
「貴重な1年間なのに、楽しめないよ、
こんなところに住んだら」と言われました。
ということで両方とも諦めましたが、
この2つのオファーですら、
米国社会の一面が見えるなあと思いました。
日本なら、安い家賃と引き換えに、
他人に子供の保育や高齢者の見守りを頼むという人、
ほとんど聞きません。
小学校に上がる前なら保育所があり、
小学校低学年の鍵っ子には学童保育や
育児ママ制度があったり、独居の高齢者なら、
介護保険があってケアマネジャーが
訪問ヘルパーや訪問看護などを使って、
だれかが数時間おきに様子を見たりして
なんとか乗り切ろうとしたりする。
米国と比べると公的サービスや制度が
圧倒的に充実しています。
もし、リソースが足りなければ、いまおきている
保育所の待機児童の改善を求める運動のように、
公的な「課題」として国や自治体に解決を求めます。

かたや、ないならないなりに、
なんとか乗り切ろうとするのが、米国のやり方。
「官」や「公」と住民との関係が
日本とはぜんぜん違うのだ、と、
こちらの保育所事情を通じて改めて感じた、
わたしなりの米国観です。
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