企業参入で変わる保育園 規模・質ともに向上へ…今後の課題は?


SankeiBiz
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 飲み水はすべてハワイの純水、食事のお米は契約農家から直接調達-。
こうした今までにないサービスを提供する保育園が、今後増えそうだ。
安倍晋三首相が成長戦略の柱の一つとして
保育園の定員を今後5年で40万人増やす構想を打ち出したのを受け、
厚生労働省が15日に株式会社による
認可保育園の参入を拒まないよう各自治体に通知した。
民間最大手のJPホールディングスなど各社が、
これまで参入できなかった多くの地域で申請を進める方針だ。

 年200回以上の研修

 「株式会社の参入を認めた地域は、ほとんど株式会社がとっていく」。
そう強調するのは、JPホールディングスの山口洋社長。
株式会社の参入を認めた自治体では、
自治体による認可保育園の運営主体の選定で、
従来の社会福祉法人よりも株式会社が選ばれることが多い。

 理由は明白。家族経営が多い従来型の
社会福祉法人による保育園に比べると、規模だけでなく
「質で上回る」(山口社長)からだ。

 JPホールディングスの場合、水や食へのこだわりだけではない。
監査員が各園の抜き打ち検査をして乳幼児の安全を確保。
発達支援の専門家チームも設けており、
園児の親からの相談を受け付け、アドバイスしている。

 今年4月1日現在で全国121の保育園を運営し
約1000人もの保育士を擁する同社では、
職員のスキル向上に年間200回以上の研修も行う。

 既存の社会福祉法人からは「金もうけを優先する」などと批判されるが、
「運営主体の選定には保護者も入る。
その選定過程で、そうした見方も変わる」(山口社長)。

 実際、参入を積極的に認め、
今年4月にいち早く待機児童ゼロを達成した横浜市では、
株式会社設置の認可保育園が全体の2割を超えた。
しかも「社会福祉法人よりも株式会社の保育園に応募が多く、
満員になる」(横浜市港北区の保育園運営会社関係者)。

 深刻化する待機児童問題を背景に、
規制緩和によって2000年に株式会社の
法的な参入規制はなくなっている。
だが、現時点で参入を認める自治体はまだ全体の約3割。
全国に2万4000近くある認可保育園のうち、
株式会社が運営しているのは2%に満たない。

 “既得権益”の壁

 多くの自治体で株式会社が排除されている理由について、
山口社長は「社会福祉法人が既得権益を守りたいからだ」と指摘する。
株式会社の参入を認めるかどうかは自治体の裁量次第だ。
社会福祉法人には国からの支援に加え、法人税なども非課税。
企業の参入で保育園が増えれば、
「園児が奪われるため、行政に圧力をかけている」。

 株式会社の認可を認めた自治体でも
「参入しようとすれば、中傷するビラをまかれるなど、
ありとあらゆる嫌がらせを受ける」(山口社長)という。

 参入を拒まないよう求めた今回の厚労省の通知で、
こうした状況の改善が見込まれる。
「自治体の態度が大きく変わってきた」
(保育所運営大手サクセスホールディングスの
瀬木葉子執行役員)のも事実だ。

 ただ、通知を受けても、すべての自治体が
すんなり株式会社の参入を認めるかは微妙。
全国で最も待機児童数が多い世田谷区は
「(株式会社参入の)リスク回避の方法を決めるため、
一定の時間が必要」(保育計画・整備支援担当課)と慎重姿勢だ。
同様の対応をする自治体は少なくないとみられ、
旧来の「秩序」を打ち破るのは、そう簡単ではなさそうだ。

 社会福祉法人交えた競争環境の整備 急務

 JPホールディングスの山口社長は、
厚労省の今回の通知後も自治体が株式会社を排除した場合、
参入を求めて徹底的に戦う考えだ。
同社だけでなく、保育園を運営する各社が今後、
認可保育園新設を増やす計画。
参入が認められるのに時間がかかったり、
条件がつけられたりすれば困惑が広がりそうだ。

 認可外の保育園には、すでに多数の株式会社が参入を進めている。
ただ、国の支援がないため、
子供を預ける保護者は認可保育園に比べ、
多い場合は月々数万円も負担が増える。
待機児童が多い中、認可保育園に入るのは激戦で、
「偽装離婚するケースまである」(都内在住、30代の母親)という。

 認可保育園は自治体が入園資格を審査する。
母子家庭なら、認可保育園に入れる可能性が高いからだ。

 いっこうに改善されない状況に業を煮やし、
今年2月以降、都内の複数の区では、
認可保育園への入園を拒否された母親らが、
集団で行政不服審査法に基づく集団異議申し立てを行った。
「保育園に入れず、優秀でも会社を辞めるママ友は多い」(同)
という事態は、企業経営にとっても、
政府が成長戦略を進めるうえでも大きな損失といえる。

 株式会社の参入で待機児童問題がすべて解消するわけではない。
「圧倒的に保育士が足りない」(サクセスホールディングスの瀬木氏)
という課題もある。
しかし、「既存の社会福祉法人の供給余力は限られる」(山口社長)。
資金や人材の豊富な大手企業の参入が、
問題解決に貢献するのは間違いない。

 すぐに大量の保育園を整備するのは困難だが、
国と自治体には、参入を希望する株式会社に
早期に門戸を開放し、社会福祉法人も交えた
競争環境を整える努力を続けていくことが求められる。
(池誠二郎)
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