【変わる働き方 生涯現役時代】子育て編(上)「出産後に戻られても困る」

msn産経ニュース
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 少子高齢化が進む日本。女性が結婚を機に退職するのではなく、
子育てと仕事の両立が進められている。
だが、現実には第1子出産を機に退職する女性は6割に上る。
いまだに結婚・出産が仕事をするうえでのハンディキャップとなっている。

 「交際している人はいますか?」「結婚相手が転勤族だったらどうする?」

 勤務先が解散したため、東京都練馬区、水沢明子さん(33)=仮名=は、
4月から就職活動を始めた。
事務職を希望し、これまでに6社の面接を受けたが、
いずれも質問は結婚や出産予定の有無ばかり。
水沢さんは「仕事をやるうえで、どんな能力があるのか、
とか仕事の話は全く聞かれなかった」。

 ◆妊娠中の“離職勧告”

 「出産後に戻ってこられても困るんだ」

 都内の鈴木直子さん(31)=同=は長女(2)を妊娠中、
当時勤めていたアパレル系企業の社長が
こう漏らしていたことを人づてに聞き、転職を決意した。
当時、社員は鈴木さんも含めて4人。仕事を続けるのは不可能だった。

 平成23年3月に長女を出産し、育休明けに勤務先を退社。
就職活動を始めたが、「午後5時退社・残業なし」の条件はなかなか見つからなかった。
結局、自宅近くの公益財団法人に転職したが、給料は以前の3分の2まで減った。

 夫は自分より先に出勤し、日付が変わる頃に帰宅。
そのため、平日は「母子家庭状態」で、夫が育児に関わることは難しい。

 鈴木さんは「働こうと思うと、子供がいることがデメリットに感じることが多かった。
2人目は欲しいけれど、今は待機児童も多い。保育園に入れられるか不安が…」。

 ◆子育て目線の能力

 出産はメリットにならないのだろうか?
 出産後も柔軟な勤務態勢や周囲の理解があれば働き続けられる。
出産した女性の経験や能力を生かそうと、
「働き続けられる職場」を目指す企業も出てきている。

 あえて「子育て中の女性」を採用したのが、
不動産の企画・設計運営「UDS」(東京都渋谷区)。
企画・デザイン事業部の鈴木衣津子さん(34)は23年11月に入社した。
長女の子育て中で、勤務は午前9時から午後5時までという条件での採用だ。

 同社は子供向けの職業体験施設「キッザニア東京」の企画設計を行っており、
ホテルや商業施設なども手掛ける。
中川敬文社長(46)は「扱う施設は女性が決定権を持つものが多い。
エンドユーザーの目線で仕事をしようにも、
社内で子供がいる人がいなかった」と説明する。

 「子育て目線」で能力を発揮してもらおうと採用したが、予想外の効果があった。
以前、社内は夜型の長時間労働で個人主義。
しかし、勤務時間が明確な人がいることで
ミーティングの時間を繰り上げ、朝型生活に移行。
フォローし合う態勢ができてきた。

 中川社長は「女性が安心して出産、子育てをできる会社じゃないと永続はできない」。
今春には新たな試みとして2人の子供を持つ女性を採用した。

 「『子育てといえばこの人』と固定したくなかった。
『女性だから女性の仕事』『子持ちだから子持ちの仕事』ではなく、
あくまで能力重視。切磋琢磨(せっさたくま)してほしい」(中川社長)



子育て一段落で再び仕事へ

 総務省の調査によると、女性の労働力人口比率は
20代後半をピークにいったん下がるが、40代前半から再び上昇する。
平成24年平均でみると、「25~29歳」で77.6%だったが、
「30~34歳」で68.6%、「35~39歳」で67.7%と低下。
しかし、「40~44歳」で71.7%と増加する。
出産を機に退職するが、子育てが一段落すると、また働き始めることが分かる。

 しかし、妊娠・出産をめぐる環境は厳しい。
日本労働組合総連合会の調査によると、
働く女性でマタニティー・ハラスメント(マタハラ)の被害を受けたのは25.6%。
実際に受けたり、周囲であったりしたマタハラ被害のトップは
「妊娠中や産休明けなどに心ない言葉を言われた」で、
「妊娠・出産がきっかけで、解雇や契約打ち切り、
自主退職への誘導などをされた」が続いた。
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