“働く母親”市場を狙え

NHK NEWS WEB
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子育てをしながら働く忙しい母親たちを巡ってビジネスチャンスがあるとして、
企業の間で新しい動きが広がっています。
どのような市場なのか。
その可能性と経済効果について、報道局の清有美子記者が解説します。

働く母親の“忙しさ”がビジネスチャンス

企業は今、どうして「働く母親」に注目しているのでしょうか。
そのヒントは、「働く母親」の日常にあります。
商社に勤め、1歳の子どもがいるこちらの女性。

保育園へ迎えに行ったあと、休む間もなく夕食を作り、
途中、子どもをあやしながら保育園から持ち帰った汚れ物を洗い、
朝干した洗濯物を取り込みます。
そして、子どもに夕食を食べさせ、お風呂に入れて寝かしつけ、その後、洗い物…。
女性は、「家に帰っても仕事の延長のような感じで休まりません。母は忙しいです」
と話していました。
とにかく忙しい!忙しいがゆえに、「働く母親」の周りにはさまざまな需要があります。
例えば、今までやっていた家事の一部を外部に任せる。
食事や食材の宅配サービスを利用する。
家事の効率を上げるために家電製品を購入する。
今後、さらに増えると見込まれる「働く母親」の周りにある需要を取り込もうと
企業から新しい動きが出ているのです。

「働く母親」の経験が戦力、ビジネスの種に

「時間や手間を省きたい」。
「働く母親」たちのニーズが商品作りに生かされています。
例えば、底の部分だけ灰色になった靴下。
手洗いや漂白の手間を省きたいという声に応え、汚れが目立つ部分に色を入れています。
また、食事用の前掛けは保育園から“手作り”を求められることが多いため、
“手作りふう”に見える仕立てにしています。
ミシンがなかったり、手縫いをする時間がなかったりする「働く母親」から好評です。

こうした商品を開発している通信販売大手の「千趣会」では
今、働く母親の多くが子どもを預ける「保育園」に関連する商品の開発を強化しようとしています。
そこで今月から始めたのは子育て中の社員を集めたランチミーティングです。
仕事と育児で忙しい「働く母親」はモニターとして集まってもらうのが難しく、
これまで、うまくニーズをつかみきれていませんでした。
そこで注目したのが社内の「働く母親」社員でした。
ミーティングに参加した母親社員たちは、
子どものために何枚も巾着袋を作らなければならなかったことや
保育園から“手作り”を求められて苦労したことなど、
自分たちの経験を基に自社の通販で扱ってほしい商品やすでに販売されている商品の
改良点などについて意見を出し合いました。
千趣会ベビー用品担当の加藤真理子さんは、
「身近に経験者として働くママがいると、
その意見を基にスピーディーに商品化につなげることができます」と話していました。

組織まで変え、働く母親市場の取り込みを図る

働く母親のニーズを取り込もうと、組織まで見直し、商品開発を強化する企業も出始めました。
「働く母親」向けの食材配達サービスを手がける「ローソン」と「ヤフージャパン」の
合弁会社「スマートキッチン」は、
開発した商品を販売するかどうかを決める決裁会議の方法を見直しました。
決裁会議にはこれまで男性幹部社員だけが参加していましたが、
先月から初めて女性社員を加えました。
そのほとんどが育児休業を経験した「働く母親」です。
さらに、全員が、これまでの男性幹部社員と同じ権限を持ち、
商品化するかどうかを決められるようにしたのです。

この決裁会議を経て商品化が決まったのは、数分焼くだけで出来上がるパイ菓子。
母親が仕事から帰宅し、慌ただしく夕食を作る間におなかをすかせて
ぐずり始める子どもに食べさせることを想定して開発されました。
働く母親には“出来たて”を出せる“手作り感”が大切だという意見も採用の決め手となりました。
スマートキッチンの吉田裕明COOは、「お菓子を温めるだけではなく、
“作ってあげたい”という親の思いが商品開発のコンセプトに入るのは今までなかったこと。
男目線だけで、これはおいしい、おいしくないという評価だけでは
絶対に生まれない商品だと思います」と話し、
育児の経験こそが商品開発に重要だと説明してくれました。

母親が働くと経済効果は6.4兆円

企業が注目する「働く母親」を巡る市場。
総務省が去年行った調査によりますと、小学校入学前の子どもを育てている女性の半数、
300万人余りが仕事に就いていて、今後、増えることが期待されています。
さらに電通総研が、公表されている国のデータなどを基に試算したところ、
結婚や出産を機に仕事を辞めた女性(25歳から49歳の316万人)が、
正社員やパートなど希望どおりの再就職をすると、
その経済波及効果は6兆4000億円に上ることが分かりました。
働く母親が増えると、子どもの教育費にお金をかけたり
外食を利用したりするなど消費が増え、
こうした消費の動きがサービス業や製造業など幅広い産業にも波及するからです。
電通総研の田中理絵主任研究員は、
「企業にとってはビジネスチャンスです。
働き手が増えて、かつ、その人たちが消費を増やすことになるので、
『働くママ』市場を成長市場と捉えて、今後、消費やサービスが増えてくると思います」
と話していました。

働く母親が増えると、そのニーズに応えるために、
企業が女性の活用のしかたを工夫、そして、さらに市場が成長する。
こうした連鎖的な動きが今後、広がりそうです。
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