深刻!保育士不足「きつい安い長い」で超不人気―待機児童解消に大きな壁

JCASTテレビウォッチ
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子どもを預け働きに出ようとしても預ける場所がない待機児童の解消は急務だが、
保育施設を増やしても、その裏で深刻な保育士不足が起き始めている。
ただ、単純に保育士を増やせばいいということではなさそうだ。
保護者からのクレームや食物アレルギーへの対応など仕事じゃ厳しく、
それに見合った待遇が得られない。
資格を取得しても保育士にならない、離職しても復職しない潜在保育士が実に多いという。

保育園増やしても運営できず…引き抜きなど各地で激しい争奪戦

待機児童数は昨年(2013年)4月時点で2万5000人という。
認可保育所に預けるのをあきらめた親も多く、
実際はその何倍もの数にのぼると見られている。
待機児童解消のために国や自治体は保育所の整備を進め、
平成23年までの2年間に460か所の保育所が新設され、
7万人以上の子どもが受け入れ可能になった。

ところが、せっかくの受け皿を作っても保育士が不足し、
各地で激しい保育士の引抜きなど争奪戦が起きている。
東京・渋谷にある保育士を派遣している人材サービス会社には、
保育士を派遣してほしいという依頼が殺到していて、多い月は200件以上にもなる。
「保育園から悲鳴に近いような声があがっている」という。

首都圏で9つの保育園を運営している社会福祉法人「あすみ福祉会」(横浜)は、
来年さらに1か所オープンする予定で30人の保育士を探している。
「ハコはできるけど、中身が整わない状況をひしひしと感じる」と話す
迫田健太郎理事長の一番の悩みは、保育士をどう集めるか。
今年7月、競争の激しい首都圏を避けて
仙台で開かれた就職セミナーに参加してびっくり仰天した。
参加した雇用者側は首都圏で保育所を運営する人たちばかりだったのだ。
なかには海外での研修制度を採用の売りにする保育所も現れる始末だった。

現役の保育士の引き抜きも激化している。
保育士7年のベテラン女性は横浜にできる保育所から、
「経験のある人がいいと繰り返し誘いを受けました」と話す。
条件は現行の給料の2万円ほどのアップだった。

深刻化する保育士不足の影響を最も受けているのが小規模保育所だ。
横浜の「そらまめ保育園」は2年前まで5人の保育士が働いていたが、1人が退職してしまった。
資格を持つ山崎厚子園長が人手不足を自ら穴埋めしながら、
人材派遣会社に毎日のように問い合わせている。
とくに深刻なのは夜間保育だという。
夜8時まで預かってほしいという親が増え、
時には10人を超す子どもを受け入れることもある。
この時間まで対応できるのは園長だけ。
「このままでは受け入れ制限しなければいけないところまで来ている」という。

全職種平均より11万円も安い給料。引き上げたくても行政の補助条件のしばり

かつて、保育士は若い女性にとって憧れの職場の一つだった。
なぜこれほど保育士が不足する事態になったのか。
保育所の数が急速に増えたこともあるだろうが、それだけではなさそうである。

現在、現役の保育士は約37万人いる。
そこへ毎年、大学や専門学校を卒業し資格を取って2万人が新人保育士として働き始める。
その一方で毎年3万人が離職し、差し引き1万人が不足していく現実がある。

資格を取っても保育士にならない人、離職者が多いにもかかわらず
復職する人が少ない潜在保育士は全国に約68万人もいるといわれる。
背景として指摘されているのが、年々増えている職場での保育士の重い負担だ。
延長保育や保護者からのクレームなど、
対応しなければいけない仕事が増えているのに、保育士の人数はそのまま。
さらに、専門的な対応が求められるようになった。
食物アレルギーや寝ていうちに突然死する乳幼児突然愛症候群が
セロ歳児に増えているからだ。

この問題を取材したNHK社会部の牛田正史記者が解説する。
「厚労省が調査した結果を見ると、職場環境の問題点として
『保護者との人間関係、責任の重さ、事故への不安』が26.5%と断トツに多いんです。
次いで多いのが『雇用条件』で16.9%。
保育士の収入は全職種平均に比べ11万円も低いんです」

その給料が簡単に引き上げられない仕組みになっているという。
認可を受けた保育所は、行政から支給される運営費で保育士の給料などをまかなっている。
運営費は預かる子どもの数、子どもの年齢で決められ、
この単価が変わらない限り、保育士の給料は増えない仕組みになっているのだ。

安倍政権が緊急の対策として打ち出したのが保育士の給料上乗せ。
今年度340億円の補助金をつけたが、保育士一人当たり1万円で、
10万円以上の差を解消するには焼け石に水である。
また、潜在保育士の再就職支援策を打ち出しているが、
「潜在保育士そのものがどこにいるのか把握できていないのが現状で、
対策は始まったばかりなのです」(牛田)という。

働く親たちを支える職場で離職者が増え、
復職する人たちが少ない皮肉な現実をどうすれば改善できるのか、メドが立たない。

NHKクローズアップ現代(2013年7月24日放送
「深刻化する保育士不足 ~『待機児童ゼロ』への壁~」)
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