かげる 子どもの遊び場 都心の幼稚園 新ビルで日照ピンチ

東京新聞
------------------------------------------------------------------------------------------------
 都市部で「日の当たる遊び場」の確保が難しくなっている。
東京都港区では、近隣のビルとの合意で守ってきた幼稚園の日照をめぐり、
業者との話し合いが頓挫。
都に救済を求める事態に発展した。
専門家からは法的なルールづくりを促す声も上がる。 (三浦耕喜)
◆法令の規定なし

 同区白金台の私立「白金幼稚園」。
JR目黒駅から徒歩五分ほどだが、日当たりのよい園庭には緑が茂る。
「ですが、新しいビルが建つと、冬は大半が陰になります」。
そう言いながら三浦昭子園長は指をさした。
その先には、シートに覆われたビルの解体作業が始まっていた。

 新しいビルとは、道を挟んだ南側のビルを建て替えるもの。
高さは約一・五倍の四十七メートルになる。
これまでも幼稚園には周囲のビル影が差していたが、
冬至の昼を基準とする影は園庭の入り口にとどまっていた。
だが、新たなビル影は園庭の中ほどまでを覆う。
午後は駅前の再開発で計画されているビルの影が伸びてくるので、
日中のほとんどが日陰になる可能性がある。

 子どもの遊び場の日照をどう確保するかは、
都市化の進む各地の幼稚園・保育園で共通課題だ。
埼玉県ふじみ野市では、保育園に隣接するマンションをめぐり日照問題に。
仙台市青葉区でのマンション建設計画でも、保育園と業者が対立した。

 だが、日照権は判例上認められるケースはあるものの、
法律で明文化された規定はない。
幼稚園や保育園の設置基準にも明確な定めはなく、
建設見直しを求めても、変更は難しいのが現実だ。
◆話し合いも限界

 その中で、白金幼稚園は個別の話し合いで日照を守ってきたモデルだった。
一九七三年に計画されたビル建設で、業者と階段状の建物とすることで合意。
これを先例に、近隣にビルが計画されるたび、話し合いで日陰を抑えてきた。
今回の計画をめぐっても、解体中のビルを建設した別の業者とは、
計画の八階から六階に下げるなどで合意した経緯がある。

 今回の業者も話し合いには応じたが、業者が示した妥協案は、
当初の十一階建て五十一メートルから一階引き下げるのみ。
「影響は大きい」とする幼稚園側と折り合わなかった。
このため、幼稚園側は先月二十四日に都に業者への指導を求めたが、
都は「法令上の問題はない」として、計画変更を都が求めることはできないと答えた。

 園児の親などでつくる「自然と子どもを守る会」の大久保青志会長は
「こちらも譲りながら一致できる点を見いだしてきた。
四十年積み上げた手法が崩れてしまう」と危ぶむ。

 自治体によっては、条例で教育施設への日当たりに配慮するよう定めるところも。
名古屋市では「中高層建築物紛争予防条例」で、業者に教育施設との協議を義務づけている。

 日照権問題に詳しい三平(みひら)聡史弁護士は
「現状では法律の要件を満たせば、日照権に基づく制限は
事実上の法律の上乗せとなるため、よほどの事情がなければ認められない。
教育施設は事情が勘案されやすいが、司法でも判断を避ける例が多い」と指摘。
「ルールを定めるために、例えば、幼稚園周辺の高さ制限など、
立法措置を取ることも必要ではないか」と話している。
------------------------------------------------------------------------------------------------