待機児童数減少、名古屋市の対策

中日新聞
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 安倍晋三首相は「五年間で待機児童をゼロにする」と掲げた。
昨年、待機児童数が全国一だった名古屋市は、
十年契約の「賃貸型」や、マンションの一室を利用した「家庭保育室」などを増やし、
昨年よりも大きく減らした。
ただ、三歳か四歳以降、再び入所先を探さなければならないケースが増え、
子どもや保護者の負担が大きくなっている。

 「小学校に入るまで、安心して通い続けられる保育所がほしい」。
同市で二人の未就学児を育てながら会社を営む女性(29)は、
取引先との打ち合わせを終えると、電話対応しつつ
保育所へ下の子(1つ)を迎えに向かう。
 今春、保育所に申し込んだが定員に空きがなく、
近所の認可保育所に週三日、一時保育で預ける。
「代わりに子どもをみてくれる人はいないからありがたい」とはいうものの、
預けたい日に予約を取れないことも。

 毎日働くのだから毎日預けたいが、この保育所の一時保育には行政からの助成がなく、
定期的に預けても一時間八百円。
一日の保育時間を短くしても、月に五万~六万円はかかる。
「正規に入所できれば保育料は安く済み、仕事も落ち着いて取り組めるのに」

     ◇

 名古屋市の今年四月の待機児童は二百八十人。
全国最多だった昨年四月より、七百五十二人減った。
待機児童の八割はゼロ~二歳児で、市はこの年齢に絞って定員枠を増やす方針だ。

 五歳児まで通える標準型の認可保育所新設は抑え、
ゼロ~二歳児までの「家庭保育室」や、
土地や建物を十年間借りて運営する「賃貸型」を、
待機児童の多い地域で集中的に開所。
来年四月にも同様の対応で、千人分以上を増やす予定だ。

 市から土地と建物を借り受けて、
宗教法人が運営する「あかつき三の丸保育園」(名古屋市中区)は今年四月に開園。
ゼロ~三歳児が入所し、定員いっぱいの三十人が過ごす。

 開所が決まったのは昨秋と急だったが、
同じ法人が自転車で移動できる範囲に別の保育園を運営している。
法人の代表は「過去に分園をつくった経験もあるので、
すぐに対応できた」という。人数が少ない分、感染症が少ないのは大きな利点。

 一昨年十二月に開園した同市千種区の清明山保育園は、
工事前から住民への事前説明に何度も足を運んだ。
「子どもの声や送迎車の駐車問題などで、
住宅地に保育園が共存することは一般的に難しく、土地の吟味も必要。
しかし、応募までに時間がなかった」と振り返る。
同園の場合、事前調整のおかげで地元との関係は良好だ。
「十年間の賃貸だが、地域に溶け込んでいるし、
保育のニーズがなくなるとは思えない」と園長は話す。

 両園とも三歳児まで。懸案は四歳以降の行き場だ。
全員が希望園に入れる確約はなく、保護者からは不安の声が上がる。
「せっかく慣れた所。同じ場所に通いたい」という要望も根強い。
二、三歳児で家庭保育室などを卒園すると、保護者は再び仕事をしながら、
保育所探しをしなければならない。
子どももようやく慣れた場所を離れなくてはならず、負担が大きい。

 「保育園を考える親の会」(東京)代表の普光院亜紀さんは
「皆ずっと通える園に入りたい。やむを得ず途中までの園に入るのだから、
行政はせめてそれ以降の道筋をつけなければいけない」と指摘する。

 (稲熊美樹)

 <待機児童> 認可保育所に入所したくても入れなかった子の数。
ただし、保護者が育児休業中だったり、
名古屋市の「家庭保育室」や横浜市の「横浜保育室」など、
自治体が独自の補助金を出すが、国が定める「最低基準」を
一部下回る基準の施設に入所したりする場合は除外。
名古屋市の場合、既に仕事をしていて月64時間以上、
一時保育を利用している場合や、特定の保育所だけを希望する場合も除外される。
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