病児の不安を緩和 医療チームに保育士や臨床心理士

日本経済新聞
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 病院での治療や入院生活を送る子供たちの
心のケアに取り組む動きが医療機関に広がっている。
医師や看護師ら医療者側と、保育士や臨床心理士らが院内にチームを結成。
遊び相手を務めるなど子供との触れ合いを通じ、恐怖や不安を解きほぐし、
スムーズな処置に導いていく。
小児科医が不足する中、治療に前向きになってもらうなど
早期回復につなげる狙いもある。

 「こっち見て。新しいキャラクターがいるよ」。
今月6日、宮城県立こども病院(仙台市青葉区)の外科病棟。
子供の心のケアに当たる専門職「子ども療養支援士」の才木みどりさん(37)が、
心臓疾患で検査を受けにきた男児(6)に絵本を広げた。
男児が夢中になること約5分後。
看護師の日下恵理さん(31)が「注射してもいい?」と問いかけると、男児は素直に応じた。
その後、玩具が並ぶ「プレイルーム」に移動。
保護者に医療費の助成制度などを紹介する「医療ソーシャルワーカー」も待機する。
男児の父親(40)は「子供の関心が何にあるかを考え、接してくれる。
院内の至るところで各分野のプロの手厚いサポートがあり、安心できる」と話した。

■おもちゃ使い説明

 同病院は2003年、保育士や子ども療養支援士ら13人が所属する「成育支援局」を発足。
医療者側と病児の橋渡し役を担う。
例えば、「子ども療養支援士」はおもちゃなどを使って検査内容を分かりやすく説明。
CTの検査では、実物の10分の1の木製の模型を活用。
ベルトを締めた後にベッドが動くこと、その際は痛くないことを伝える。
「事前に痛みや怖さという誤解を解いておけば、
検査に前向きになってくれる」(同病院)という狙いだ。

 同病院に入院する子供は増加。
12年度は07年度に比べ、7200人増の延べ約4万6600人に上った。
泣いたり暴れたりして、注射などの治療を拒むなどのケースは減ったという。

 順天堂大順天堂医院(東京・文京)でも昨年8月、
小児科などの患者をサポートする体制をスタートさせた。
小児科医や看護師のほか、子ども療養支援士、保育士、音楽療法士ら約10人で構成する。
保育士らは医療カンファレンスにも参加し、子供の症状や退院のメドなどについて意見を言う。
「子ども療養支援士」が血液疾患で入院する男児(4)と接する中で、
男児は普段、服用する薬の名前を全て覚えていたことに気付いた。
「どんな薬か理解して飲んでいる証拠。
こうした情報を看護師らと共有すれば、効率よい治療につながる」(同医院)という。

■専門的視点で対処

 同チームは今年5月までに心臓疾患や血液疾患など計61件のケアにあたり、
今後はほかの診療科にも広げたいという。
チームの責任者を務める同大非常勤講師の田中恭子医師(41)は
「治療に追われる医師や看護師だけでは、子供の悩みや心配ごとは把握できない。
子供の対応のプロたちが専門的な視点から、対処していく必要がある」と指摘する。

 がんを患う子供たちの入院が長引くケースは多く、
がんの医療現場ではとりわけ、心理面でのサポートが重要となる。

 大阪市立総合医療センター(大阪市都島区)では11年、
小児がんなどの子供を支援する「こどもサポートチーム」を結成。
緩和医療科の多田羅竜平医師(43)や緩和ケア認定看護師など専従スタッフが
小児がん専門の臨床心理士らとともに、治療を怖がる子供の相談などに応じる。
年間130人に上るという。
多田羅医師は「平均半年間という長期入院の子供が多く、
家族と離れる寂しさを少しでも減らしたい」と語る。

 子供が安心できる雰囲気づくりを目指す動きもある。
茨城県立こども病院(水戸市)では院内に図書室を設置。
背の低い本棚に絵本や紙芝居など約4000冊をそろえる。
年間3000冊を超える利用があり、
「検査や治療を受ける子供は日々、ストレスを感じている。
好きな絵本でリラックスできる」(同病院)。

 子供たちにとって、治療や入院生活には不安、恐怖、寂しさが常に、つきまとい、
完全に払拭するのは難しい。
よりよい治療はもちろんのこと、子供たちの気持ちに寄り添い、
少しでも治療への意欲が湧いてくるなどのサポートが一層、求められそうだ。

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■小児科医の確保カギ 労働環境の改善が急務

 病院での子供への医療体制を充実させるには、小児科医の確保がカギを握る。

 厚生労働省によると、2011年10月時点で小児科のある全国の病院は2745施設で、
18年連続の減少となった。
減り始めた1994年の約4千施設と比べて3割少なくなった。
これに対し、病院に勤務する小児科医は10年末時点で約9300人となり、
10年前から約1200人増えている。

 小児科医が増えているのに、小児科が減る“逆転現象”はなぜか。
最大の要因として、小児科医はほかの診療科と比べ、
女性の割合が高いことが挙げられる。小児科医は3人に1人が女性のため、
出産や育児でフルタイムで働けない医師も多い。
具合の悪くなった子供を昼夜に関係なく病院に連れてくる現状では、
当直を含めて対応できる人員に限りがあり、現場の負担はほとんど変わっていない。
「希望者が増えるよう、労働環境の改善も図っていくことが必要」(厚労省)

 小児科医不足と言われる中、厚労省は今年度から、
地域の小児専門の医療機関や学校などが連携し、
子供の在宅治療や家族の相談支援にあたるモデル事業を8自治体で始めた。
効果を見極めた上で、対象を拡大していくという。
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