スマホの中に――教育産業のIT活用 遠隔指導や“対戦型”学習も

ITmediaニュース
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通信教育や学習塾の大手が相次いで教育系ITベンチャーとの連携を進めている。
スマートフォンを活用した遠隔指導や、生徒同時を“対戦”させる学習サービスも。

 通信教育や学習塾の大手が相次ぎ、教育系IT(情報技術)ベンチャーとの連携を進めている。
少子化の進展で生徒獲得競争が激化、
大手といえども支持されるコンテンツをそろえる必要に迫られているからだ。
そこで目を付けたのが、スマートフォン(高機能携帯電話)などの端末を利用しながら、
目の前で家庭教師から指導を受けている感覚を味わえるなど
ユニークなサービスを提供するITベンチャー。
ベネッセコーポレーション(岡山市北区)は本格的連携に向け実証試験を開始した。
端末使い実証実験

 「成長戦略を歩む上で重要なターニングポイントになる」

 小・中・高校生向け通信教育市場の約9割を握る“ガリバー”のベネッセ。
森安康雄家庭学習事業本部デジタル戦略推進部長は、
教育系ITベンチャーについてこう指摘する。

 教育市場で勝ち抜く戦略の一環として、
2012年4月設立のマナボ(東京都港区)との連携を探る。
同社が運営するスマホやタブレット端末を活用したサイト
「mana.bo」を高く評価しているからだ。

 サイトを立ち上げるきっかけは、三橋克仁社長が東大3年時の冬の夜の出来事だった。

 アルバイト先の予備校から駅に向かっていると携帯電話が鳴り、
教え子の受験生から「物理の電磁誘導に関する問題を解説してほしい」と請われた。
ノートや設問図が目の前にあれば、容易に説明できるが、音声のみでは伝えにくい。
2次試験を控えた相手に断ることもできず、
携帯電話による指導は試験直前まで続いた。

 この経験が生きた。質問を専用サイトに投稿すると解答できる講師が名乗りをあげ、
ネットを介したリアルタイムでの指導が始まる。
講師は図形にペン入力で説明を加えたり、
数式を自動でグラフ化しながら音声通話で解説する。
三橋社長が電話指導で感じたもどかしさはない。

 「マナボのシステムは、目の前で家庭教師から指導を受けるような新しいスタイル。
分からない問題に遭遇したら即座に疑問を解消できる仕組みは、
学習効果の向上につながると確信した」と語るのは
ベネッセ高校生事業部横断戦略ユニットの伊賀公治ユニット長。

 早速、本格的な連携に向けて実証試験を開始。
今年1~3月に「進研ゼミ高校講座」の受講生で難関校志望30人に対し
無料トライアルを実施。その結果、十数人が期間中、何度も活用した。
本格事業化に手応えを感じたベネッセは、
7月から3カ月間の有料トライアルを100人規模で進行中だ。

自前主義やめ連携

 ITの進化で教育市場への参入障壁は下がり、
ベネッセでも自前主義にこだわった技術開発では足をすくわれ、地位を脅かされかねない。
同講座の売上高は11年度に前年度比7.3%減少した。
教材から端末まで自らそろえてきたが、それではITベンチャーの速さに勝てない。

 だからこそ「マナボに限らず連携先を広く探す」と森安部長は言い切る。
その一環として、教育系ITベンチャーが自由に使えるオープンスペースを
10月に東京・渋谷に開設、教材開発を補完するベンチャーを探す。

 海外での活動も積極化。
数多くのベンチャーを生み出してきたマサチューセッツ工科大(MIT)が設立した
MITメディアラボと共同で、次世代型学習プログラムの研究を始めた。
シリコンバレーの駐在員による情報収集も怠らない。
英国の教育系アプリ開発ベンチャー、クイッパーと提携、
ベネッセ米国現地法人がスマホを使った中学生向け学習サービスを運営する。
ネットで全国対戦型学習サービス

 危機感を抱くのはベネッセだけではない。
大手学習塾の京進は9月から、学習塾の湘南ゼミナール(横浜市中区)からスピンオフした
FLENS(フレンズ、東京都品川区)の塾同士をネットワークでつないで行う
リアルタイム対戦型学習サービスを本格導入する。

 同サービスは、全国の塾から同等レベルの生徒同士をマッチングし、
宿題の確認テストを一斉に解いて順位を競い合う。
13年7月現在で全国105教室約2200人が利用する。

 教育系ITベンチャーをめぐる大手学習塾などの動きは、さらに活発化する見通しだ。
それを裏付けるように、「14年度春に向け、
5000~1万人単位で生徒を抱える複数の学習塾と商談が進んでいる」
とフレンズの大生(おおばえ)隆洋社長は話す。
マナボの三橋社長も「100人規模の塾や中堅・大手予備校などから、
家庭学習の補完サービスとして問い合わせがある」と打ち明ける。

 米シリコンバレーでは、教育系ITベンチャーはEduTech(エデュテック)と呼ばれ、
その動向が注目を集めているが、日本でもベンチャーにとって、
教育分野は競合が少ない「ブルーオーシャン(参入者がいない新市場)」と言われる。
学習コンテンツ不足が指摘される中、新規参入や創業の動きは加速するとみられる。
独創性に優れたITベンチャーをいかに見極めて連携できるか-。
こうした方策こそが、不透明感漂う市場を勝ち抜く鍵になりそうだ。(日野稚子)
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