子育て行き詰まる前に…ホームスタート ボランティアが家庭訪問

東京新聞
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 小さな子どもがいる家庭を、子育て経験のあるボランティアが訪問する
英国発の取り組み「ホームスタート」が各地に広がっている。
一緒に子どもをあやしたり、悩みを聞いたりして親のストレスを和らげる。
核家族化などで親の孤立化が問題となる中、
虐待防止の効果も期待されている。 (宮本直子)

 東京都江東区のNPO法人が実施する子育て支援事業「ホームスタート・こうとう」。
ボランティアと訪問家庭の調整役を務める高橋由美子さん(57)は
「泣いてばかりの赤ちゃんとの生活を不安に思う新米ママや、
第二子出産後に上の子の世話が思うようにできずに
悩んでいる母親からの相談が多い」と話す。

 今年五月から事業を利用した区内の主婦、松原伸子さん(29)は
夫婦とも大阪府出身。
近くに頼れる身内がいない。会社員の夫(29)は仕事が忙しく、
家事と長男(2つ)、次男(1つ)の育児に追われる毎日だ。

 次男を出産後に引っ越したため、近所にママ友も少ない。
以前は毎日のように長男を公園で遊ばせていたが、行動範囲が狭まった。
「長男に我慢させることが多く、ストレスがたまっていたかも」と松原さん。
弟をにらみ付け、威嚇するような態度を取ったり、
時折、「弟、嫌い、大嫌い」と叫ぶことも。
「ストレス発散の場がないことが分かり、心が痛んだ」

 そんな時、近くの子育て支援センターでホームスタートの存在を知った。
「下の子を抱っこしてくれるおばあちゃんみたいな存在がいてくれたら」。
わらをもすがる思いで電話した。

 ボランティアの金子順子さん(59)が計六回訪問。
夏場に水遊びに出掛けたり、近所のお祭りに行ったり、
三人だけではあきらめていたことを金子さんと一緒に楽しんだ。
長男は金子さんの訪問を楽しみにするようになった。

 松原さんは「悩みを聞いてもらうだけでなく、
子どものちょっとした成長ぶりも一緒に喜んでくれた。
地域にこんな存在がいてくれることが、子育ての安心感につながった」と話す。

 NPO法人「ホームスタート・ジャパン」事務局長の
山田幸恵さんはホームスタートの役割を
「公的な子育て支援では届かない隙間を埋める支援」と話す。
公的機関に相談するほど深刻な状況ではないが、
近くに頼る人もなく、毎日の子育てにストレスを感じている…。
「この段階で家庭を訪問し、手を差し伸べるシステムが今の社会にはない」と山田さん。

 ホームスタートは、そんな親たちにさりげない支援を提供する。
「気軽に相談し、地域のボランティアと一緒に子育てを楽しんでもらう。
それが結果として、虐待など重大な問題を防ぐことにもつながる」

 現在、ホームスタートの実施団体は全国五十四。
約半数が自治体の補助金などを受けて運営している。
山田さんは「数は増えているが、まだまだ足りない。
今後も普及活動を広げたい」と話す。
実施団体はホームスタート・ジャパンのHPで検索できる。
◆週1回2時間程度 4~6回

 約40年前に英国で始まった家庭訪問型の子育て支援の仕組みで、約20カ国に広がる。
子どもを預かったり、家事を代行したりする支援とは違い、
依頼者の話を聞き、一緒に家事や育児をする「傾聴と協働」が特徴。
研修を受けたボランティアが週1回2時間程度、計4~6回訪問する。
ボランティアには交通費のみ支給される。

 日本ではNPO法人「ホームスタート・ジャパン」が2009年、
ボランティアと家庭の調整役を務める「オーガナイザー」の養成講座を始めた。
ボランティアの研修は各実施団体が行っている。
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