病児保育の施設整備、徐々に浸透 働くママを支援

日経新聞
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 病気になった児童を一時的に預かってくれる
「病児・病後児保育施設」の整備が徐々に進んできた。
国の後押しなどで過去4年で施設は約3割増。
働きながら子育てをする女性には頼りになる存在だ。
一方で、日常的なキャンセル待ちや事前予約など不便さを感じることもある。
女性が働きやすい環境づくりとして、待機児童の解消だけではなく、
「病児保育」の充実が一段と求められそうだ

 東急多摩川線矢口渡駅前のビル2階にある
病児保育施設「うさぎのママ」(東京・大田)。
7月下旬、夏風邪や手足口病の1~4歳の子供計10人が保育士と絵本を読んだり、
手遊びをしたりしていた。

 保育士5人と看護師1人が常駐。
午前8時30分から午後5時30分まで、
発熱や感染症などの病気で保育園に通えない子供を一時的に預かる。
利用料は原則1日2500円だ。
保育士の金子織江さん(26)は「病児を預かるだけに、
体温や顔色の変化など細心の注意を払っている」と話す。

■キャンセル待ち

 「うさぎのママ」は区が国の補助を受けて委託している施設で、
大川こども&内科クリニックに併設した。
2003年の開設以来、利用者は徐々に増加。
昨年の利用者は延べ1900人超で、稼働率は90%近い。
初めて利用した同区の女性会社員(33)は1人で長男(2)を育てる。
「新しい会社で働き始めたばかり。子供が病気になっても休まずに済み、
仕事を続ける上では心強い」と喜ぶ。
同施設に長女(3)を迎えに来た同区の女性会社員(42)は
「安心して預けられて、助かる。定員がいっぱいで何度か会社を休んだこともあり、
いつでも受け入れてもらえる施設がほかにもあれば」。
大川洋二理事長は「キャンセル待ちが日常的になっているほど、需要は大きい。
働く女性には不可欠な施設」と話した。

 事前予約が必要な施設が多く、
急な体調悪化でも預かってもらえないケースも少なくない。
こうした不便さを解消しようと、「うさぎのママ」のほか、
病児保育施設「ハグルーム」(東京・世田谷)などでは、
当日でも申し込みを受け付けている。

■自治体も独自制度

 厚生労働省によると、国の補助対象の病児・病後児保育施設は12年度で1102カ所。
08年度に比べ、約32%増加したとはいえ、
施設不在の地域があるなど整備は追い付かず、
独自の支援に踏み切る自治体も出てきた。

 病児保育施設が皆無の東京都足立区では昨年度、
自宅で預かる「訪問保育」の利用者への助成を開始。
1日10時間、1回の病気で7日間を限度に、
相場の半額に当たる一時間最大1000円を区が負担。
利用者はこれまでに延べ30人以上といい、
「施設整備よりも現実的。利用料の助成は子育て支援につながる」(同区)。
同様の支援は渋谷、墨田区などで導入している。

 全国の自治体としては初めてとなる独自の補助制度を導入したのが岡山県だ。
看護師や保育士の常勤雇用などを条件とする国の補助に対し、
看護師らが兼務でも補助対象とした。
病児保育施設「たんぽぽ」(岡山県鏡野町)は
非常勤の看護師2人が対応しているため、国の補助の対象外で、
費用は設置者の町営病院と町の負担だった。
今年度からは、県が年間約40万円を補助する見通しだ。
関係者は「施設継続の後押しになる」と評価する。

 もっとも、自治体の財政事情も厳しい。
昨年10月、開業した病児保育施設「ブルーラグーン」(川崎市)。
駅から徒歩15分と交通の便は良くはないが、登録者数は600人超。
市の補助はなく、人件費など毎月約100万円の赤字を、
同施設を運営する小児科医の北浜直医師(36)が負担する。
市担当者は「補助するだけの財源の余力がない」などと説明。
北浜医師は「補助なしでいつまで運営できるか」と苦悩する。

 08年度の内閣府の「子育て女性の意識調査」では
病児保育の充実を望む声は4年前に比べ、10.3ポイント上昇の54.7%。
今後、核家族化や共働き世帯の増加に伴い、
「病児保育」のニーズが高まるのは必至だ。
訪問保育などを手掛けるNPO法人「フローレンス」(東京・千代田)の
代表、駒崎弘樹さん(33)は「女性の社会進出を背景に、
病児保育が担うべき役割は大きい」と力を込める。

 政府は「女性の活躍」を成長戦略の柱の一つに掲げており、
女性の労働力が日本経済に活力をもたらすとの期待は大きい。
「病児保育」の整備は、女性が仕事をしながら、
安心して子育てができる社会の実現に貢献しそうだ。

■採算面や人手不足 受け皿づくりの壁

 国などが病児保育施設の整備を進める背景には、
働く母親のニーズに対応できていない現状がある。
普及には採算面と人手不足が壁だ。

 戦後からしばらく、専業主婦世帯が多かった。
男女雇用機会均等法の施行以降、共働き世帯が増加。
1990年代には共働きが専業主婦を逆転した。

 こうした状況を踏まえ、国は94年度から、病後児保育の補助を開始。
2006年度以降は病児保育なども対象に加えた。
国の「子ども・子育てビジョン」では14年度までに、
年間延べ利用者数200万人を目指すという目標を設定。
15年度にスタートする「子ども・子育て新支援制度」でも
病児保育を一つの施策の柱とし、国は支援の拡充を進めていく。

 もっとも、施設の運営は厳しく、病児・病後児保育施設で組織する
「全国病児保育協議会」の調査では、全体の74%が赤字だった。
同協議会は「利用率が季節によって変わったり、
キャンセルが多かったりするのも赤字の要因の一つ」と説明。
「補助金を受けても、採算が取れない」と嘆く。

 施設に必要な看護師や保育士も不足しており、
ハード面の整備に加え、人材の養成や確保なども急務だ。
学習院大経済学部の鈴木亘教授(社会保障論)は
「保育園に通う子供世帯から定期的に一定額を徴収し、
補助の財源に充てるなど、受け皿を拡大していく必要がある」と訴える。

(堅田哲 山本公彦)

病児・病後児保育 発熱など病気になった10歳未満を一時的に、預かる。
病気の回復期に至らない子供を預かる「病児保育施設」と
回復期を対象とする「病後児保育施設」がある。
国の補助対象の施設はおおむね子供10人に看護師1人、
同3人に保育士1人の常駐や隔離機能を持つ部屋の整備などの
条件を満たさなければならない。
利用の際は、かかりつけ医などへの受診が必要。
国が過去に示した利用料の目安は1日2000円で、各自治体などが最終的に決める。
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