小児 iPad夢中 治療スムーズ 大津赤十字病院

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◆おとなしく抗がん剤4分注入 学会報告へ

 小さな子どもに痛みや緊張を強いる治療を受けさせる際、
どう工夫すれば、スムーズに処置が行えるか――。
多くの保護者や医師が思い悩むであろう、そんな問いに、
大津赤十字病院(大津市)小児科副部長の今井剛医師(43)を中心とするチームが
一つの答えを出した。
それはビジネスマンや若者の間で人気のタブレット型多機能端末「iPad(アイパッド)」。
小児がんと闘う、ある男児の約11か月に及ぶ治療経験を踏まえ、
iPadの有効性を今井医師は強く確信した、という。(高山千香)

 治療を受けたのは草津市に住む男児(2)。
男児は今年1月、食べたものを吐くなどして具合が悪くなり、地元の病院を受診。
しかし最初の病院では詳しい原因が分からず、
その後、かかった大津赤十字病院で診断を受け、
脳の腫瘍(小児がん)が原因であると分かった。

 すぐに脳外科医の執刀で手術が行われ、無事、腫瘍は取り除かれた。
しかし再発を防ぐには頭部への継続的な抗がん剤投与が必要で、
痛みなどが伴う苦しい闘病が始まった。
そしてこの治療の責任者となったのが今井医師だった。

 男児はあらかじめ頭の中にカテーテルなどを埋め込んでいて、
投薬の際は注射針を頭皮に刺し、しばらく体を動かさずじっとしておく必要があった。
鎮静剤などを使えば、処置がしやすくなるが、
血圧低下などの副作用があり、体がまだ小さい幼児にはできるだけ
利用を控えるべきだと考えられた。

 「針を刺されるのを嫌がったり、すぐ患部を触れようとしたりする。どうしたものやら」。
保護者と今井医師たちでいろいろ意見を出し合って、たどり着いたのがiPadの活用だった。

 両親の影響で、男児はiPadで、幼児番組を見たり、
パズルゲームを試したりするのが大好きだった。
3~10月に行われた抗がん剤治療では、処置室にiPadを持ち込み、
まず椅子に座った母親(35)が膝の上で男児をだっこ。
iPadを触らせ、父親や看護師がいろいろ話し掛けて
治療から注意を上手にそらせ続けた。

 抗がん剤を注入している4分間は頭部を動かしたり、触ったりすることが厳禁。
男児には計36回の注入が行われたが、男児はiPadに夢中で、
医師らの手を煩わせることはほとんどなく、順調に治療を進めることができた。

 診療に同席することが多かった父親(36)も
「普段は極力、iPadを触らせないようにしている。
ただ治療が円滑に進むので、病院では例外的に触らせた。
本当に子どもの心をとりこにしますね」と効果に目を見張る。

 今井医師によると、これまで小児医療では注射や点滴などをする際、
おもちゃや絵本、テレビなどで気をひくことが多かった。
「タブレットは指の操作を伴うので、子どももよりそちらに注意を傾けることになる。
アプリが豊富なことも飽きさせないことにつながる」と利点を語る。

 そして、「海外では子どもの治療で
タブレットが有効なことに着目する医療機関も増えてきている。
国内でも、こうした利用に使える有効なアプリの開発が進めば」と期待する。

 今井医師は、男児の治療でiPadを有効活用した事例について、
今月末から福岡市で開かれる「日本小児がん看護学会」で報告する予定だ。
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