「妊娠から子育て」継続支援 国がモデル事業

中日新聞
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 虐待につながる恐れのある子育ての悩みを解消させるため、
妊娠から産後まで、切れ目なく妊産婦と家族を支える
国のモデル事業が本年度から始まった。
中には妊娠期から就学前までの子育て家庭を、
同じ担当者が支えるフィンランドの制度を取り入れた
「日本版ネウボラ」を目指す自治体もある。

 「よだれが出て、ちょうだいと催促する手も出てきた。
離乳食開始のサインですね」。東京都世田谷区の子育てサロン「アガ・ボーリ」。
助産師の中西貴子さんが母親に声をかけた。

 生後一カ月以降の母子を対象に、
中西さんや保健師の伊原詳子(ようこ)さんら七人が、四年前から開いている。
二カ月の長女と参加した同区の主婦、野田直子さん(36)は
「ここに来るまでは、気が変になりそうだった」と振り返る。

 伊原さんらは「産後、地域の最初の支援となる乳児家庭全戸訪問でも、
個々に応じた的確な助言が得られず、悩む人は多い。
児童館に来る元気がなく、集団になじまない人も。
まずは外に出して、孤立を防ぎたい」と話す。

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 厚生労働省によると、
二〇一一年度に虐待死(心中以外)した子どものうち、ゼロ歳は43%を占める。
うち四割が望まない妊娠による遺棄などで、生後十日以内に死亡している。
妊娠届は自治体、妊娠期は医療機関、産後の子育て期は保健所と窓口が異なるため、
連携が取れずに、支援網から取りこぼされるケースも多い。

 厚労省は本年度から、妊娠期から切れ目なく支援する
「母子保健コーディネーター」の設置や、
産後ケアなどの「妊娠・出産包括支援モデル事業」を始め、
既に三十市町村が参加の意向を示している。

 この動きを背景に、NPOが運営する「地域子ども・子育て支援システム研究会」では、
世田谷区や千葉県浦安市、三重県名張市、愛知県高浜市など
七市区村が参加し、フィンランドの母子相談施設「ネウボラ」を参考に、
支援体制を整備中だ。

 ネウボラはフィンランド語で「アドバイスの場」を意味する。
全ての子育て家庭に、一人の保健師が妊娠期から就学前まで密に面談し、
必要な支援につなげる。
妊婦健診や予防接種など、妊産婦とその家族の全ての窓口が一本化され、
子育ての拠点となっている。

 名張市では看護師などの「チャイルドパートナー」が担当となって、
母親の配偶者の有無や就労状況などにより、個々のサポートプランを作成。
育児不安が募りやすい産後二週間で全戸を訪問し、
面談と過去の妊婦健診などから状況を把握するという。
同市健康支援室の保健師、上田紀子さんは
「これまではハイリスク重視で、(母子全体に接し、全体的にリスクを下げる)
『ポピュレーションアプローチ』がなかった。気軽に行ける相談の場を目指す」と説明する。

 高浜市では、妊娠期から継続して見届ける「マイ保健師」を置く。
乳児全戸訪問の後、一歳でバースデー訪問をして、予防接種や養育の状況を確認。
市内の産婦人科の空き病床を利用して、不安を抱える母子のデイサービスもする。

 ネウボラに詳しい吉備国際大の高橋睦子(むつこ)教授(福祉政策論)は
「プランは最終目的ではなく手段。
子育て中の家族が信頼する専門職と対話を積み重ねることが肝要。
何げない会話から、見守るべき部分と支援につなぐ部分を
見極める技量が求められる」と指摘する。
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