給食牛乳の異味・異臭訴え、なぜ相次いだ? 子供の集団パニックも

SankeiBiz
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 首都圏の小中学校で今春、給食の牛乳を飲んだ児童、生徒から
異味・異臭の訴えが相次いだ。
千葉県では下痢や腹痛を訴えた児童、生徒が1千人を超えた。
牛乳を原因とする食中毒が疑われたが、検査したところ、
食中毒菌などは検出されなかった。
しかし、1千人以上が症状を訴えたのは事実だ。これは、どういうこと?(平沢裕子)

 大人には許容範囲

 「牛乳の味が違う」-。神奈川県や東京都内で
4月、学校給食の牛乳を飲んだ小中学校の児童、生徒から違和感を訴える声が相次いだ。
「大豆みたい」「にがい」などの指摘が多く、
神奈川県厚木市では全校生徒の4割が違和感を覚え、下痢や吐き気の訴えもあった。
都内でも複数の下痢や嘔吐(おうと)の症状が確認された。

 いずれも雪印メグミルク海老名工場で製造された牛乳。
同社や川崎市健康安全研究所などが同じ製造番号の牛乳について、
大腸菌群や残留農薬、化学物質などの検査を実施したが、結果は全て異常はなかった。
同研究所の岡部信彦所長は「食中毒や意図的に
何かが混入されたのではないかと心配したが、検査の結果、全く問題がなかった。
官能検査として私を含めた職員数人が味見をしたところ、
青臭いという人もいたが、私にはおいしく感じた」。

 その後の同社の調査で、加工前の生乳を運ぶタンクローリー車1台から豆臭が確認され、
同社はこれが原因の可能性が高いとした。
豆臭は牛乳を温めたときなどに感じるにおいで、
出荷前の官能検査では異常と判断されなかった。
小児科医でもある岡部所長は「官能検査をした大人には許容範囲の味や風味が、
子供たちには『いつもと違う=異味・異臭』となったのではないか」と推測する。

 集団パニック?

 千葉県では5月下旬、古谷乳業が牛乳を提供していた小中学校から
「牛乳の味がおかしい」との訴えが相次いだ。保健所の調査(複数回答)で、
下痢320人▽腹痛1223人▽吐き気282人▽嘔吐26人-だったが、
医療機関を受診した児童、生徒は16人。
県衛生指導課によると、普段の日でも1%程度の子供は医療機関を受診しており、
今回の受診者数が特に多いわけではないという。

 精神科医の勝田吉彰・関西福祉大学教授は
「少し味が変わっただけで下痢をするデリケートな子供はいる。
子供は大人より暗示にかかりやすく、集団パニックが起こりやすい。
『おなかが痛い?』と聞かれたり、他の子が腹痛を訴えたりするのを見て、
それまで症状のなかった子供も痛みを感じたり、
下痢をしたりすることは十分ある」と指摘する。

 においや味は食品の腐敗などを知る手掛かりの一つ。
子供たちの訴えは無視できないが、雪印メグミルクの場合、
同じ工場から出荷した一般用牛乳で同様の訴えはなかったという。
日本乳業協会の石原哲雄常任理事は
「牛乳は新鮮な生もので、工業製品のように常に同じというわけにはいかない。
大きく違うことのないように品質管理をしているが、
気温や湿度、乳牛の餌など飼育環境の変化で風味が
変わりうることを理解してほしい」と話している。

 ■食べ合わせでも味は変化

 学校給食の異味・異臭の訴えは珍しいことではない。

 日本酪農乳業協会(現Jミルク)が平成18年に作成した
「学乳における異味・異臭発生対応マニュアル」によると、
異味・異臭に関係する事故が14年度から16年度までに11件発生。
いずれも検査で異常は確認されず、工場の製造工程にも原因は見当たらなかった。
事例に対し、学校側に「牛乳の風味は季節や乳牛の餌によって変わりうる」
「給食の食べ合わせにより牛乳の味の感じ方も変化する」などと説明。
一方で、「学校では1人の児童が『味がおかしい』と言うと、
他の大勢の児童も連鎖的に同じ症状を訴える傾向があった」と分析している。
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