なくならぬ「児童虐待」、再発防止策作った直後も被害に悩む和歌山…検察の「情報公開」で状況は変わるか

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 和歌山市で昨年7月に起きた2歳男児虐待死事件を受け、
和歌山県の検証委員会が今年4月に再発防止策をまとめたが、
その直後の5月、県内では乳・幼児の虐待事件が相次いで発覚した。
行政が取り組みを進めてもなくならない虐待。
和歌山県では、児童相談所(児相)への児童虐待相談件数が
平成25年度に800件近くと過去最多を記録した。
法務省は虐待の疑いで親が逮捕された場合、
検察が捜査情報や処分理由などを児相に連絡する方針を決め、
県も関係機関との連携強化や孤立化する親の支援に乗り出した。
虐待防止には垣根を越えた連携や情報共有が求められている。(兵頭茜)
 
逮捕されても再び虐待
昨年7月、和歌山市内の自宅で当時2歳だった長男の頭部を強打し死亡させたとして、
傷害致死容疑で父親が逮捕された事件は、
再発防止に向けた態勢づくりへと行政を大きく動かした。

 この父親は23年11月と12月にも、
長男の太ももを踏むなどの暴行を加えたとして傷害容疑で逮捕されたが、
いずれも起訴猶予となっていた。
長男はその後、児相に保護されたが、昨年6月11日に
長期外泊許可が出て自宅に戻り、
7月8日に正式に家庭復帰が可能と判断されたが、同24日に死亡した。
児相は当時、家庭復帰から約1カ月で事件が起きたことに対して、
「入所後の(親子関係の)経過は良好と判断した」と説明していた。

 事件を受けて、県は11月に検証委員会を設置し、
弁護士や学識経験者を中心に、行政機関の対応や再発防止策について協議。
今年4月、児相と市、乳児院など関係機関の連携が不十分だったとする
報告書を県に提出した。
その中で指摘された再発防止策について、
仁坂吉伸知事は「国や市町村と連携し、すべて具体的に実施していきたい」と話した。

 しかし、そうして態勢を整えるなかでも、虐待は続いた。
報告書が出されて間もない5月、同県岩出市で、
生後間もない長女の頭をたたくなどし頭蓋骨骨折の重傷を負わせたとして、
21歳の母親が逮捕された。
「育児によるストレスが限界に達していた」と供述したという。

 さらに同月、当時5歳の義理の長女に暴行し
左太ももの骨を折る重傷を負わせたとして、同県有田市の29歳の父親が逮捕された。
被害を受けた子供はともに児相の関連施設で保護された。
 
検察との情報共有どこまで…
県は、昨年の男児虐待死事件で、父親が以前の傷害事件で
起訴猶予となっていた事実を重視。
6月上旬、虐待の疑いで親が逮捕された場合に、
検察側の捜査情報や処分理由などを
児相が共有できるような法整備を法務省に要望した。

 県子ども未来課によると、同省刑事局担当者は法整備については
「そこまでする必要はない」としつつも、
「現行法のなかで一定の情報提供は可能。
必要があれば児相と情報を共有していく」と話し、
捜査情報を積極的に児相に提供する方針を示した。
今後、全国の検察に周知していくという。

 同課は「今後どのくらいの情報が開示されるか注視したい。
(それらを参考に)対策をより具体化していく。
むしろこれからが重要だ」と話す。
児相も「実際に情報がもらえるかは別として、
気になったときに相談や連絡をしやすくなったことは大きい」と、
検察との連携が深まったことを評価する。
 
相談件数は過去最多
県のまとめによると、県内に2カ所ある児相が
25年度に自治体の福祉事務所や一般などから受け付けた児童虐待の相談件数は、
793件で過去最多を更新。前年度より75件多く、増加傾向が続いている。
その内訳は、子ども・女性・障害者相談センター(和歌山市、中央児相)に
651件、紀南児相(田辺市)には142件だった。

 相談の内容で最も多かったのが、殴る蹴るといった身体的虐待の278件(35%)。
次いで、言葉や態度で心理的疎外感を与える心理的虐待が267件(34%)、
食事を与えない、長時間放置するなどの育児放棄(ネグレクト)が233件(29%)、
性的虐待が15件(2%)だった。

 ネグレクトは前年度より4件減少したが、
心理的虐待は54件増、身体的虐待も22件増加するなど依然として深刻な状況だ。
特に、家庭内暴力に関連した虐待の通報が増加傾向にあるという。
件数の増加について、県子ども未来課の岡本勝年課長は
「虐待そのものが増えていることもあると思うが、
虐待への認識が浸透し、一般の人や学校からの通報が増えたためでは」と話す。

 虐待者については、実母が452件(57%)で最も多く、
実父が266件(33%)、実父以外の父親が24件(3%)、
実母以外の母親が15件(2%)だった。

 岡本課長は「核家族化の中で、親が孤立していくケースも多く見られる。
従来の親支援プログラムをさらに改善していく」と話し、
今年中に市町村向けに「親支援のファシリテーター」養成研修を実施する計画だ。

 現在も、妊婦健診で声かけを実施するなど、
なんとか母親の孤立化を防ごうと取り組む。
子育てを共有するコミュニティーの減少が進むなか、
県では、親が子育てを学ぶ場や親同士が
意見交換できる場づくりなどに力を入れていくという。
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