自閉症の子に優しさ注ぐ 映画「そばにいるよ!」

中日新聞
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「共に生きる社会」をテーマに作品を撮り続け、
三年前になくなった映画監督の槙坪多鶴子(まきつぼたづこ)さん。
自閉症の子どもを描いた遺作「星の国から孫ふたり」の製作過程を追ったドキュメンタリー
「そばにいるよ!」が完成した。
親交のあった元テレビディレクターの床波(とこなみ)ヒロ子さん(66)が遺志を継いだ。
九月に名古屋市などで開かれる「あいち国際女性映画祭」で上映される。

 「どういう障害かを理解できる映画を作れば、
どれだけ自閉症の子が大変な思いをしているかが分かる。
私も何かできるかなと、温かいまなざしに変わってくれれば、
地域の中で生きていける」

 映画冒頭のインタビューで槙坪さんは思いを語る。
槙坪さんは高齢者の自立をテーマにした「老親ろうしん」、
エイズ感染を考える「地球っ子」など、常に弱者の視点に立った作品で知られる。
二〇一一年九月に七十一歳で亡くなった。

 「星の国から孫ふたり」は、ノンフィクション作家の門野(かどの)晴子さんが、
二人の自閉症の孫との生活をつづった著作が原作。
感銘した槙坪さんが〇九年に映像化。幼稚園教諭の経験もある床波さんが関心を持ち、
撮影を願い出た。

 当時、槙坪さんは重度のリウマチと糖尿病などで、
毎日のインスリン注射と二週間に一度の輸血をしながら撮影する毎日。
映像はむくんだ足をさすりながらメガホンを握る槙坪さんが、
自閉症の子だけではなく、「しつけが悪い」と世間から誤解されて
苦しむ親への理解の必要性を訴える。

 映画の完成後、各地の上映会の様子を映した場面では、
感激した自閉症の子の親が槙坪さんに駆け寄るシーンも。
その一人、愛知県日進市の竹内由美子さん(48)は
中学三年の次男が知的障害を伴う自閉症だ。
「社会に負い目を感じて生きてきた」と竹内さんは振り返る。
言葉を発せず、睡眠障害で夜は眠れない。
じっとできず、外出時は少し目を離すといなくなる。
幼稚園では「こんな子は預かれない」と言われた。

 転機は次男が五歳の時、通った養育施設で
さまざまな障害のある子や家族に出会ったこと。
苦しんだ末に「障害は個性の一つ」と受け入れ、明るく笑顔で育てていた。
「自分だけではない」と力をもらった。

 次男は小学二年の時、雨を見て「木が喜んでいる」と初めて言葉を発した。
今はその一言一言に感動する毎日だ。
市内の小中学校で自閉症を啓発する教室も開く。
「自閉症の子は周りの子よりも少し、感じ方が違うだけ。
映画を見て少しでも社会の理解が進めば」

 床波さんは「街中で泣き叫ぶ子は、もしかしたら自閉症かも。
そう思うだけで接し方も変わる。
障害を理解し、一片の優しさを掛けてほしいとの槙坪さんの思いを伝えたい」と話す。

      ◇

 あいち国際女性映画祭は九月三~七日、
名古屋市東区のウィルあいちをメーン会場に開催。
「そばにいるよ!」は六日午前十時から上映予定。
(問)同映画祭事務局=電052(962)2520
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