離婚後の子どもの扶養 親権者とは限らず

日本経済新聞
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 未成年の子どもがいる夫婦が離婚することになった場合、
離婚時に、どちらが子どもを引き取るのか(親権者)、
非親権者は親権者にいくら養育費を支払うのかを決めなければなりません。
妻が親権を持ち、夫が妻に養育費を支払う場合、
夫と妻、どちらの扶養に子どもを入れた方がいいのか考えてみたいと思います。

■税の扶養と社会保険の扶養

 まず、扶養の意味を理解しましょう。
扶養には大きく分けて、「税制の扶養」と「社会保険の扶養」と2種類があります。
所得税の扶養とは、納税者に扶養親族がいる場合、
その納税者が一定の金額の所得控除が受けられるというものです。
一方、社会保険の扶養とは一定の条件を満たした扶養親族が、
扶養者が加入している社会保険の資格を得られるというものです。

 未成年の子どもは両親どちらかの扶養に入ります。
世の中の大多数を占める、収入が「夫=妻」もしくは「夫>妻」の家庭では、
夫婦が結婚している間、夫の扶養に入れるのが一般的です。
しかし、夫婦が離婚することになると、夫の扶養のままにしておくのか、
妻の扶養に移すのかを検討する必要に迫られます。

■別居していても扶養は可能

 「夫の扶養のままにする」と聞いて少し違和感を持つ方もいるかもしれませんね。
妻が親権を持ち、夫と子どもは離れて暮らすのに、
夫が子どもを扶養に入れるのはおかしいのではないかと。

 国税庁が公表している「タックスアンサー」によると、
夫が非親権者で子どもとは別に居住していても、
養育費をきちんと支払っている、
つまり「生計が一」であれば、扶養に入れることは可能だという見解を示しています。
同居しているかどうかが扶養の要件ではなく、
生活の面倒をみているかどうか問われます。
 子どもを扶養に入れるメリットは会社から扶養手当が支給されたり、
所得税の扶養控除が適用されたりすることなどです。
もし、妻が働いていて、年収が103万円以上あるのでしたら、
子どもを妻の扶養にすることによって、
妻は会社から手当や税金のメリットを受けることができます。
子どもを勤務先の健康保険の被保険者にすることもできます。

 もっとも、扶養手当は会社によって異なります。
妻の扶養に入れる「メリット-デメリットの差額」より、
夫の扶養に入れる「メリット-デメリットの差額」の方が大きければ、
夫の扶養に入れておき、夫の手取りの増加分のうち、
いくらかを養育費として渡してくれるよう頼んでみるのも一考です。

■年収103万円以下ならメリットなし

 一方、年収が103万円以下であれば、そもそも所得税を支払う必要がないため、
子どもを扶養に入れても税金のメリットはありません。
子どもを夫の扶養に入れておいた方が、夫は前述のメリットを享受できるため、
夫の手取り額が増えます。

 健康保険についても、夫の扶養のまま継続した方が金銭的なメリットは大きくなります。
離婚した妻は夫の被扶養者の資格がなくなりますので、
勤務先の社会保険に加入できない場合、国民健康保険に加入することになります。
国保には「扶養」の概念はないため、
子どもも国保に加入するなら子どもの分の保険料負担が生じてしまうからです。

 ただ、別居している元夫の健康保険に子どもが加入したままだと、不便な点もあります。
健康保険証を1枚しか支給されない健康保険ですと、
通院したり、健康保険で何か手続きをしたりするたびごとに
別居している夫と連絡を取る必要が生じます。
親権者ではない夫に扶養を任せるわけですから、
夫が了承すればという前提でもあります。

 まずは、「とにかく子どもは親権者(妻)の扶養に入れる」と決め付けるのではなく、
「夫の扶養のまま」という選択肢も候補の一つとして、
メリット・デメリットをよく考えてみることをお勧めします。
実際のところ、離婚すれば子どもは夫の戸籍から外れることが多く、
そのことに嫌悪感を持つ夫もいるのですが、
子どもを夫の扶養のまま残すことによって、
夫が必要以上に拒否感を持たず、話がすんなりまとまったケースもあるのです。
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