望まない妊娠、悲劇防げ SOS窓口の拡充が急務

中日新聞
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 「妊娠SOS」などの名称で、相談窓口を設ける自治体が増えている。
望まない妊娠などによる赤ちゃんの遺棄や虐待を防ぐのが目的で、
「こうのとりのゆりかご」を運営する熊本市の慈恵病院が全国的に知られる。
同病院相談役の田尻由貴子さん(64)ら各地の助産師と、
日本財団(東京)が相談の質向上と各地の連携を目指し、
今月から全国で学習会を始めた。

 今月上旬、名古屋市内で開かれた学習会。
田尻さんや実際に相談を受ける愛知、三重両県の助産師らの報告に
百人を超す助産師、保健師らが聞き入った。

 親が育てられない子を匿名で預かる「こうのとりのゆりかご」を、
二〇〇七年に始めた慈恵病院。
田尻さんは「ゆりかごに救われた命は七年間で百一。
相談で救われた命は五百を超える」と二十四時間・三百六十五日、
電話を受けるSOS相談の意義を強調した。

 同病院への相談件数は、一三年度が千四百四十五件と増加の一途。
その約七割は熊本県外だ。田尻さんは顔を合わせて面談をするよう努めている。
初回相談で「育てられない」と言う人も、県内で面談を重ねることができる人ほど、
「自分が育てたい」と気持ちが変化するという。

 自宅で出産して間もない母子が「ゆりかご」に預けるため、
関東地方から長距離移動した例なども紹介。
来院時に赤ちゃんが低体温になっていたり、
母親も陰部の裂傷があったり。
「熊本まで来るのは母子ともに危険。
本来は相談者の地元の行政が関わらないといけない。
各地に安心して産前産後を過ごせる施設がほしい」

 三重県の「妊娠レスキューダイヤル」を受託する
NPO法人「MCサポートセンターみっくみえ」(三重県桑名市)代表の
松岡典子さん(57)も「受託前から望まない妊娠の相談を受けており、
一団体では支援に限界がある。私たちの経験を共有したい」と考える。

 同法人は一二年十一月から受託相談を開始。
週三回・三時間、助産師と看護師が対応し、二年間で百十九件を受けた。
受託から五カ月かけて児童相談所、産婦人科医、
弁護士会、教育委員会などと連携し、
一緒に周知や運営に取り組む体制を整えたことも報告した。

 昨年六月に始めた名古屋市の「なごや妊娠SOS」。
相談員の篠田恵見さん(57)は「電話で窓口を紹介しているが、
付き添って同行する人や結果を共有する仕組みが必要」と話した。
こちらも週三回・三時間、助産師が電話とメールの相談に対応し、
昨年末までに八十九件を受けている。

 日本財団で学習会の企画を担う赤尾さく美さん(44)は
「相談窓口を設ける自治体は増えているが、まだ足りず対応に差もある。
危機を抱える妊婦の相談を受けるなら受け皿も確保する意識を。
相談を地元の支援につなげるネットワークをつくりたい」と意気込む。
赤尾さんも助産師で、愛知県内の総合病院などに勤務しながら、
望まない妊娠の相談などに関わってきた。

 田尻さんは三月に慈恵病院を退職し、
「ゆりかご」の運営から退く。「今後は経験を伝え、母子の生涯に寄り添う姿勢で、
SOS相談の窓口普及のお手伝いをしたい」と言う。

 学習会は今後も日本財団が中心となって続け、
二月十四日には東京都内で都助産師会と共催する予定。
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