保育必要 認定証来ても 入所不可

東京新聞
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 今春の認可保育所の入所選考では、例年と違う混乱も起きている。
どこにも入所できない子をなくすことを目標に国が
「子ども・子育て支援新制度」を始め、保育の仕組みを変えるためだ。
保護者らを戸惑わせるのが、新たに導入される「保育の必要性」の認定制度。
あなたのお子さんには保育が必要だが、
入れる所はありません-というメッセージとなって届き、
「何のための認定か」と憤る保護者も。自治体の担当者からも困惑の声が上がる。
 (小形佳奈、杉戸祐子、柏崎智子)


 一歳半の長女の入所を東京都杉並区に申し込んだ荒井玲奈(れいな)さん(36)に
区から一次選考結果を知らせる封書が届いたのは二月中旬。
開封し、真っ先に目に入ったのは、一日十一時間までの
保育を受ける権利があることを記した緑色の認定証だった。
「保育所に入れる!」と歓喜したが、二枚目の白い紙を読んでぼうぜんとした。
希望の保育所のどこにも入れなかったことを告げる不承諾通知だった。
「何を言われているのか、理解するのに時間がかかった」

 中野区の無職渡辺有美子さん(34)は、
次男(3つ)を出産後に夫と離婚し、一人で子育てしている。
アクセサリー製作の内職をしながら認可保育所の空きを待ったが、
経済的に困窮し、生活保護を受給するようになった。
心労から昨年、うつ病を発症した。

 今回の入所申請には「子どもを預けて病気を治し、
働けるようにする必要がある」という主治医の診断書を添えた。
なのに、第六希望まで書いた認可保育所の一次選考は全滅。
「認定証だけもらっても、どうしようもない」と憤った。

 新たに始まった認定制度は、従来の入所申し込みの前に、
そもそも、その子が保育を必要とする状態にあるのかどうかを自治体が証明するもの。
親の働き方により、公費で預けられる時間数が変わる。

 ただし、認定は入所の保証ではない。
保育所に空きがなければ入れないのは従来と同じだ。
発行する自治体にも戸惑いがある。

 本紙が東京二十三区に取材した「保育緊急アンケート」で、
認定制度の導入で利用者にメリットがあるか聞いたところ
「ある」としたのは八区にとどまった。
「ない」が四区で、十一区が無記入か「分からない」と答えた。

 自由記述欄には、制度導入への疑問や問題点が並んだ。
目黒区の担当者は取材に「入所と結び付かず、
利用者も行政も手間が増えただけ」と話した。「意味がない」とした区もあった。

 内閣府は、認定制度で「保育需要をつかみやすくなる効果もある」とする。
同意や期待を寄せる区がある一方、懐疑的な見方も。
ある区は「すべての子どもの保護者に一斉に申請してもらうなら別だが、
保育所申し込みに合わせて出してもらう今のやり方では、
正確な需要の把握にならない」と指摘した。

 事務作業も煩雑に。認定証の発送が今月末までかかる見通しの葛飾区の担当者は
「入所できなかった保護者から、『区が保育する必要性を認めたのに、なぜ』
との問い合わせが相次ぐかも」と気をもんでいる。

◆介護保険をモデル 国が導入

 子ども・子育て支援新制度の認定証は、保護者の申請を受け、自治体が発行する。
主に保護者の働き方によって子どもが保育を何時間まで
公費で受ける権利があるかを定める。
標準時間(一日十一時間まで)と短時間(同八時間まで)の二種類がある。

 モデルは介護保険制度の要介護度認定。
国は当初、認可保育所の申し込みや入所決定の業務を自治体から切り離し、
介護サービスと同様に、保護者がそれぞれ証明書を持って
入所先を自力で探すやり方を想定していた。
この場合、保護者は認定証がないと公費による保育が受けられなくなる。

 しかし、深刻な保育所不足で混乱を招くことや、
福祉が後退するという批判があり、
当面は自治体が入所先を調整する今の仕組みを維持しつつ、
認定制度は導入されることになった。
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