ノロウイルス「症状ない人」から感染拡大 調理前、トイレ後の手洗い徹底を

産経ニュース
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 ノロウイルスによる食中毒の集団発生が相次いでいる。
要因の一つが、感染しても症状が出ない「不顕性感染」の人が
調理した食品などを通じた汚染だ。
専門家は「食品を扱う人は全員が感染者であることを前提に、
トイレの後や調理前の手洗いを徹底することが大切」と
注意を呼びかけている。(平沢裕子)

■ウイルス量は症状のある人と同じ

 ノロウイルスによる食中毒はかつては二枚貝が主な感染源とみられたが、
近年は調理や配膳(はいぜん)の担当者を介しウイルスが食品などに付着、
それを食べた人が感染するケースが多い。
 東京都台東区の飲食店で先月末、弁当を食べた
中学生ら88人が発症した集団食中毒も調理担当者を介した感染とみられている。
同店によると、調理担当者2人の便から
検出されたノロウイルスが患者と同じ型だったといい、
この2人が感染源の可能性が高い。
2人のうち1人はおなかの調子が悪く自覚症状があったが、
もう1人は全く症状がなく、不顕性感染とみられる。
 都福祉保健局健康安全部食品監視課は、
調理担当者が料理を盛りつける際に手指から食材にウイルスが付着したとみている。
同店で食中毒を出したのは初めてといい、
同店総務部は「症状がなくてもノロに感染している人がいることは知っていたが、
調理担当者などへの対策を意識したことはなかった」と打ち明ける。
 都の担当者は「これまで食中毒を出したことがなかっただけに
安全への過信があったのではないか」とし、
同店の調理担当者などスタッフに対する衛生教育を徹底するよう指導した。
 ノロウイルスは人の腸内で増えるため、ウイルスを広げる可能性が
最も高いのが便の排泄(はいせつ)後だ。
 国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部第四室の野田衛室長は
「ノロの場合、不顕性感染でも便に排出されるウイルス量は症状がある人と変わらない。
調理の現場では誰もが感染していることを前提に
対策をする必要がある」と指摘する。
■ペーパー20枚を通過する
 東京都健康安全研究センターが、
ノロに似たウイルスを混ぜた水溶液を2枚重ねのトイレットペーパーで
拭き取る実験をしたところ、
10枚重ねた計20枚の紙でも中指や小指からウイルスが検出された。
 同センター微生物部ウイルス研究科の森功次さんは
「紙を何枚重ねて拭いても、手指にウイルスが付着するのを防ぐのは難しい。
大事なのは手洗いの徹底など手指をきれいにすること」とする。
 ノロウイルスは10~100個の少量でも体内で増殖し食中毒を起こす。
 同センターの手洗いの実験では、泡立てたせっけんで
10秒もみ洗いした後に流水で15秒のすすぎを2回繰り返すことで
100万個のウイルスが数個まで減った。
一方、流水だけの15秒の手洗いでは約1万個のウイルスが残っていた。
 森さんは「症状の有無にかかわらず、仕事で食品を扱ったり、
家庭で調理をしたりする人はトイレの後や
調理前に丁寧に手洗いをすることを習慣づけてほしい」。
野田室長も「感染症対策はすべて手洗いをしっかりすることが基本。
一人一人が日常生活の中の衛生管理を徹底することが
ノロウイルスの拡大を抑えることにつながる」と話している。

■感染症は室内で20日以上
 ノロウイルスによる食中毒は、原因となる食品を食べた後、
1~2日の潜伏期間を経て、嘔吐(おうと)や下痢を起こすのが特徴。
厚生労働省によると、過去10年のノロウイルスによる
食中毒は年300~500件発生しており、患者は年9000人~3万人に上る。
 ノロウイルスは乾燥した室内では20日以上感染性を保持するとされる。
トイレのドアノブや水道の蛇口など、便の排泄後に
ウイルスのついた手指で触る可能性のある場所は汚染が起こりやすい。
これらの場所は日常的に次亜塩素酸ナトリウムを使い
消毒・清掃することが勧められる。
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