普及進まぬ子どもの義手 「成長後押しへ活用を」

東京新聞
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 生まれつき片方の腕が成長しなかった子どもに、義手の普及が進んでいない。
多くが義手なしでも日常生活にある程度適応し、
必要性を認める医療者が少ない上、制度も不十分なためだ。
義手を使えばできることは広がる。
専門医は「障害のある子の成長を後押しするため、
積極的な活用を」と訴える。 (林勝)

 右手と義手の左手でつまんだマシュマロ。
神奈川県に住む男児(3つ)は、
二つにちぎって見せ「できたあ」と満面の笑みを浮かべた。

 男児は左手のひらと指の形成不全で、生まれつき手首のあたりから先がない。
母親(34)は出産後に受診した医師から
「この程度なら、何でもできる」と説明を受け、二歳まで義手なしで育てた。
男児は双子の兄と活発に動いた。
「左腕も使って折り紙もする。順応性に驚いた」と母親。

 ただ、食事のときなどのつかむ動作は苦手だ。
「つかめたら」との思いから義手について調べ、
東京大病院リハビリテーション科四肢形成不全外来を受診。
肘上までかぶる装具の先に、樹脂製の手を付けた義手を使い始めた。

 樹脂の手は、弾力のある人さし指と親指が適度に離れ、間に物を挟める。
男児は大喜び。おもちゃや道具を指に挟み、工夫して使っている。
半年前からは「筋電義手」も試している。
肘の筋肉の動きをセンサーが感知し、連動して機械の指が動く仕組みだ。

 母親は「手がないままでもいい」と、大人が決め付けることに違和感を覚えるという。
「義手が必要かどうか、本人が判断できるまで、機会を与えたい」

 男児のような先天性上肢切断の発生率は約一万人に一人。
「幼児期から義手が使われることはほとんどない。
成長後に見た目の問題で本物に似せた装飾義手を使うことが多い」と、
同病院の医師、藤原清香さんは指摘する。

 藤原さんは二〇一二~一三年、カナダの
小児リハビリテーション病院に留学。
支給制度が整う欧米では、乳幼児期から積極的に義手を使い、
両手の動作を実現する取り組みが進んでいるのを知った。
一歳未満から簡易義手を着け、目的に応じて多様な義手を使う。
「鉄棒や跳び箱、野球、料理、バイオリンなどで、
多様な義手が幅広く活用されている」という。
子どものころから義手生活に慣れているので、
成人後も義手の使用が、仕事やスポーツなど
社会生活の幅を広げる動機につながっている。

 一方、国内では子どもへの対応が遅れている。
障害者総合支援法に基づき、市町村が実施する
福祉用具費の支給制度はあるが、子どもの活動目的に合わせた
特殊な義手や筋電義手は対象外。
簡易なタイプでも過去に支給実績がないことなどを理由に、
認めない自治体も多いという。

 義手が高額過ぎる問題も。特殊な義手の大半が外国製で、
小さな樹脂製の手が十万円弱。
筋電義手も全て輸入で、最低でも百五十万円。
小児の筋電義手の利用希望者は医療機関などからのレンタルに頼っている。
藤原さんは「個人の成長を支える手段として、
義手が社会にもっと認められてほしい」と話している。
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