<どうなるの?子育て支援>学童保育への補助 「民間」は置き去り



東京新聞
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 共働き家庭の小学生が対象の放課後児童クラブ(学童保育)。国が四月に始めた子ども・子育て支援新制度では、一万人に迫る待機児童の解消のため、学校の校舎などを使って学童を開設するよう市町村に促している。だが、父母や地域で運営している全国約七千カ所の民間学童は、今後の位置づけが不明確で、父母らに不安が広がっている。 (福沢英里)
 「さあいくぞー」。名古屋市千種区の学童保育所。子どもたちは、押し入れから伸ばしたひもに、おもちゃの紙エレベーターを滑らせた。学童の建物は、木造平屋建てで築約五十年。十六年前から学童として使われており、ロッカーや掲示板など年季の入ったものばかり。子どもたちにとっては、思い出がたくさん詰まった「生活の場」だ。
 ただ借家は耐震基準を満たさないため、年内には移転しなければならない。運営する保護者が移転先を探し、市有地に目を付けたが、周辺住民の理解を得るのに苦慮している。移転に携わる保護者の谷田幸さんは「新制度で支援の充実を期待したが、土地の確保すらままならない現状を知ってほしい」と声を落とした。
 新制度では、すべての子どもが参加できる「放課後子供教室」と学童の一体型を充実させる方針で、公的施設を使った学童増設を市町村に促している。現在の待機児童解消のほかに、女性の社会進出に伴って学童への需要が急増するとみられているためだ。
 全国約二万二千百カ所ある学童のうち、地域や父母が設置した民間の学童は30%を占めているものの、新制度では「既存の学童もニーズに応じ余裕教室を活用する」とされているだけ。国の補助事業は本年度は継続されているが、将来も続くのか不安が出ている。
 学童問題に詳しい石原剛志・静岡大教授(46)は「新制度では、公的施設を学童として使うことを前面に押し出しているのが特徴。民間学童への補助には消極的だ」と話す。財政難の市町村にとっても、公的施設を使用した方が学童に補助を出すよりも安上がりで、渡りに船だという。
 厚生労働省によると、放課後子供教室は、工作や科学実験などの学習体験の場として位置づけられている。これに対し、学童の多くは、子どもの自主的な遊びや異学年のつながりを重視する「生活の場」。ある保護者は「授業が終わった後に、子どもたちを学校に閉じこめるべきではない。放課後は地域に飛び出して遊ぶのが子どもの自然な姿だ」と訴える。
 一方、新制度では学童の面積基準が新たに設けられ、「児童一人当たり約一・六五平方メートル以上確保すべきだ」とした。極度に狭い学童では生活の場を確保できないためだ。ところが現状では、都市部を中心に基準を下回る学童が多い。
 横浜市によると、市内には、新たな設備や運営基準を満たさない民間運営の学童が約九十カ所ある。より安全な場所への移転を促すため、市は昨年四月、移転した場合に借家への家賃補助を月二十万円に増額した。ただ、地域住民の理解が得られないなどで、移転できたのは一割にすぎない。
 石原教授は「学童保育は地域によってさまざまな運営形態がある。まずは自治体の実施義務を明確にして一定の水準を保証しないと、新制度の基準も子どものためにならない」と強調する。
 <「放課後子供教室」との一体型事業> 国は「放課後子ども総合プラン」として、2019年度末までに約30万人分の受け皿を増やす。新規開設する学童の約8割を学校内で実施。約2万カ所ある全小学校区のうち、1万カ所以上を一体型事業にする。
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