児童養護施設の子に民間企業 夢への一歩 支援の輪


東京新聞
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 家庭の事情で、親と一緒に住めない子どもが暮らす児童養護施設。高校卒業と同時に働き始め、一人暮らしをする子どもが多いが、自動車運転免許の取得費用を自分で用意できないことが仕事を始める上でのネックになっている。18歳で社会の荒波に放り出される子どもたちを資金面から支援しようと、さいたま市の企業が免許取得費を助成しているほか、返済不要な給付型奨学金を設けた企業もある。 (白井康彦)
 助成しているのは、さいたま市浦和区で自動車教習所の生徒募集業務を行っているインター・アート・コミッティーズ(IAC)。
 社長の皆川充さん(52)によると、助成のきっかけは「子どもの貧困対策に、国や自治体などが力を入れ始めているので協力したい」と思ったこと。
 教習所の費用は三十万円程度かかり、親からの援助が期待できない施設の子どもにとっては、高いハードルとなっている。埼玉県の二〇一三年の調査では、高校卒業後に就職した施設の子は八割に達する。自動車運転免許の取得が就職の条件となっていることも多く、「取得費が出せないことが、就業を難しくしている現実がある」(皆川さん)という。
 このハンディを少しでも和らげようと、埼玉県は一二年度から、一人当たり五万六千円余を補助しており、同社は昨年度から残りの全額を出すことにした。対象は県内の施設に住む高校卒業予定者で、施設を通じて希望者を募集。これまでに取得した二十九人の助成費総額は七百六十万円。
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 四月に県内の電気工事会社に就職した男性(19)は、同社からの助成を受けて三月末に運転免許を取った。三月に定時制高校を卒業するまで、昼間にコンビニエンスストアでアルバイトして少しずつ貯金したが、免許を取るには足りなかった。
 勤務先では、免許取得翌日から二トントラックを運転し、資材などを運んでいる。「四月初めからすぐ車に乗って仕事を始めることができ、うれしい」と声を弾ませる。
 皆川さんは「施設を出た子どもには運転免許が宝物なんです。社会に出た後も、頑張ってほしい」とエールを送る。同社は助成制度を県外に広めるため、一般社団法人青少年自助自立支援機構を一月に設立。企業などに協力を要請している。
 一方、施設の子どもの大学・専門学校進学率が低いのは、高い学費と生活費を自分一人では工面できないことが背景にある。化学製品製造・販売会社のハーベス(さいたま市浦和区)は四月、県内の施設の子どもと里親のもとで暮らす子どもを対象にした「ハーベス育英奨学金」を創設した。
 学力や向上心を考慮して年一人を選考し、学費全額(授業料は年間最大百二十万円)を給付する。自宅以外からの通学者には、年間六十万円の生活援助金も用意しており、奨学金は大学四年間で最大七百五十万円になる。一六年三月の高校卒業予定者が第一号になる。
 同社総務部によると、施設出身者のほとんどの子どもが進学をあきらめている現状から、返済が不要な給付型奨学金を創設した。「子どもたちが夢を追い求められるよう応援したい」としている。
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