知事選 争点フォーカス<2>保育士 希望と合わぬ賃金

写真
植松園長(右)から保育園の特色などを聞く藍さん(左)ら=川越市の名細保育園で

東京新聞
------------------------------------------------------------------------------------------------
 二十四日朝、川越市立の認可保育所「名細(なぐわし)保育園」に一台の小型バスが到着した。乗客は、保育士を目指す県内の大学四年生二人と高校生一人。将来は県内の保育園に就職してもらおうと、県が実施したバスツアーの一行だ。
 午後は富士見市とふじみ野市の二園も訪問し、園長と懇談したり園内を見学したりした。参加した浦和大四年の藍誠高(まさたか)さん(22)は「園ごとの特色が分かった。やはり保育園で一生働きたいと思った」。ただ、「三十代以降も保育士を続けるのは収入的に難しい、と聞く。将来に不安がない、と言えばうそになる」とも続けた。
 国の試算では、二〇一八年三月には全国で約六万九千人の保育士が不足する。待機児童を減らすため、各地で保育施設の拡充が相次いでいるからだ。県によると、県内の現在の保育士数は二万六百人だが、一九年四月までに約三千三百人増やす必要があるという。
 なぜ保育士が不足するのか。国の調査では、大学や短大などの保育士養成課程の卒業生のうち、保育士として就職するのは51・7%にすぎない。進路変更の最大の理由は「賃金が希望と合わない」ことだ。
 県内の昨年度の平均賃金は月額二十一万六千四百円だった。名細保育園の植松恵利子園長は「保育士は子どもの命を守り人間の基礎をつくる仕事。それに見合うよう、もっと評価されていい」と訴える。
     ◇
 保育士の賃金の基となる保育単価は国が市町村などの地域別に定めているが、独自で上乗せする自治体もある。東京都は本年度から、保育施設に人件費を補助する制度を始めた。約三万五千人の保育士らに一人月二万一千円を上乗せできる計算だ。都の負担は年間約八十九億円に上るが、担当者は「保育士を確保し、やりがいを持って長く続けてもらうには職責に応じた賃金が必要だ」と強調する。
 東京都内の保育士の平均賃金は月額約二十七万円となり、県内との賃金格差は五万円以上に広がった形だ。ただ、県の担当者は「県独自で上乗せする予定はない」と言い切る。県内の大学などの保育士養成課程の卒業生は毎年約二千人に上るが、「保育士志望の学生は地元での就職を重視する傾向が強い。バスツアーなどで県内の保育園について情報を発信して地元就職を促していけば、必要数は確保できる」という。
 一方、賃金の不満を抱えれば早期離職の懸念も強まる。東京都内の保育士は平均三四・五歳で勤続年数は約七年だが、県内は平均三一・九歳、勤続約六年とより若い人が支えている。
 認可保育所の増設を訴える母親らでつくる「さいたま・保育園のことを考える親の会」代表で会社員の阿部一美さん(36)=さいたま市緑区=は、「若手の中に経験を積んだベテランもいることで、安心して子どもを預けられる。県としても保育士の待遇改善に取り組んでほしい」と求めている。 (谷岡聖史)
------------------------------------------------------------------------------------------------