子どもの「野球離れ」は、もう止められない

甲子園は夏の一大イベント(※イメージ)
甲子園は夏の一大イベント(※イメージ)
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父よ、息子とキャッチボールしていますか

 毎年夏休みの恒例といえば、甲子園球場(兵庫県西宮市)で開かれる全国高校野球選手権大会だ。今年の大会は、東海大相模(神奈川)が仙台育英(宮城)を破り、45年ぶり2度目の優勝を果たした。今年は高校野球100年目という節目でもある。

●甲子園は夏の一大イベント

 春夏の甲子園は、国民的なエンターテインメントとしても破格の扱いだ。全試合が生中継で全国にテレビ放送され、茶の間で、あるいは商店街の軒先、休憩時間の職場などで、出身校や地元校など老若男女がおのおの、さまざまな思いで試合の模様に見入り、その結果に一喜一憂する。

 日本は野球文化が深く根付いた国だ。小中高から大学、社会人、プロ野球に至るピラミッドが形成され、近年はメジャーリーガーも毎年のように輩出している。全国的な大会はほとんどないが、会社や地域などに根ざした草野球チームもたくさんある。

 だが、その野球文化を形成する土台は、少しずつ弱まってきている。いつもはゴルフの取材をメインにしている筆者は先日、久しぶりに野球の取材に出かけた。中学生の硬式野球の大会だったが、主催する連盟の幹部と話していて、野球人口の特に「小学生の野球離れが深刻だ」という話を聞いた。ゴルフ界も、ゴルフ人口減に悩んでいるだけに失礼ながらちょっと興味が沸いた。

 硬式野球は、子どもたちが普通にやっている軟式野球と違い、硬式球を使用するので、学校の部活動にはない。いわゆるクラブチームだ。日本全国で約1500チーム、3万人ほどがプレーしているという。硬式の高校野球にすぐに対応でき、その先にはプロ野球も見えているし、硬式少年野球出身のプロ野球選手は多い。個人と団体の違いはあるが、硬式少年野球は「プロ」を意識するジュニアゴルフと似た環境にあるようだ。

 幹部の話によると、現在は中学生の選手数はそう減ってはいないのだが、その下の学童や小学生の選手数が減少して、チームが成り立たなくなっているケースも目立つという。少子高齢化がスポーツ界に及ぼす影響を懸念する声があるが、小学生の野球人口減少のスピードはそれ以上だといい、原因はそればかりとはいえないらしい。

「サッカーにいく子どもが増えてきたことが大きいけど、それよりも今の小学生ぐらいの子どもの父親がキャッチボールをしなくなっているのが原因じゃないかと思う。お父さんとのキャッチボールが野球への入り口になる。キャッチボール、してくれないかなあ」とため息をつく。野球を題材にした名作映画「フィールド・オブ・ドリームス」の世界がしばらくしたらなくなりそうだ。

●野球人口減少の原因は父親とのキャッチボールにある?!

 筆者が子どもだった半世紀近く前は、子どものスポーツと呼べる遊びといえば野球ぐらい。小学校のクラスで野球チームを作って他クラスと試合をしたり、他校と対戦したりした。適当な空き地もあったし、学校のグラウンドを使うのもそう厳しくなかった。けがをしても、させても自己責任(そんな言葉は知らなかったが)だったし、「夕焼け小焼け」の音楽が流れるとグラウンドを出るというルールぐらいしかなかったように記憶している。

 いまは空き地が少なく、公園やグラウンドの規制も厳しい。小学生ぐらいの子どもを持つ親が子どもの頃から趣味が多様化してきたのも一因なのだろうか。野球も今や遊びから自然発生的に始めるのではなく、ゴルフのような特殊のスポーツと同じように「親が始めさせる」ようになってきているらしい。かつての超メジャーなスポーツが、小中学生を取り込むことに頭を悩ませている。

 日本中学校体育連盟のHPをみると、各競技の登録者人数で、2012年は軟式野球26万1527人、サッカー24万8980人だったが、翌2013年は24万2290人と25万3517人でサッカーが逆転している。気軽にできる軟式野球ですらそうなのだから、硬式となるとなおさら減っているのだろう。

 ネットで用具の価格を見てみると、グローブなら少年野球用でだいたい1万円台だが、サッカーボールなら3000円ぐらいで手に入る。そのスポーツを選択するのに、費用が基準ということはないのだが、確かに費用面ではサッカーに比べて野球が不利なのは否めない。

 前出の連盟幹部は「やはり、サッカーはボールひとつあれば1人でかなり練習できるけど、野球の場合、バット1本でできる素振りはともかく、ボールを使う練習となると1人ではできることに限りがある。少なくともキャッチボールをするにしても相手が必要だし、グローブは2ついるし、費用からいってもサッカーの方が始めやすいのかなあ」とため息をつく。

●費用や仲間、気楽にできる場所がないことが原因

 再び昭和の時代を振り返ると、今の団塊ジュニア前後の世代ぐらいまでは、とにかく子どもの数が多かった。9人対9人の本格的な試合はできなくても、近所の数世代で集まれば、キャッチボール、ノック、バッティング練習から試合もどきのような遊びはできた。今の子どもが野球遊びをしようにも、一緒にやってくれる仲間も少ないし、気軽に野球できる場所もない。

 野球経験のない少年が大人になっていくと、当然ながら息子とキャッチボールもしない。子どもの野球離れは確実に進み、もう止められない流れにあるように見える。ワールドベースボールクラシック(WBC)やオリンピックといった世界大会での優勝争いに絡めるほど、世界トップクラスにある日本の野球界の土台は、なんだかんだ裾野の広さが支えてきている。

 今年も夏の甲子園に対する国民の熱気や盛り上がりは、これまでどおりに見えたが、それもいつまで続くのだろうか。猛暑が一段落して朝晩が少し涼しくなった今、冷静に考えると心配になってくる。
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