子どもの泣き声にイラつく人こそ、マナー違反ではないか?

赤ちゃんの泣き声は騒音?
ダイヤモンド・オンライン
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子どもの泣き声は騒音か?

 世の中は、イライラすることで溢れている。しかし、最近になってその社会的な“沸点”があまりにも低くなっているように思えてならない。
 特に、電車や新幹線の中で泣く子どもに対して、世間から冷たい目が向けられている。ベビーカーを引いて移動する母親(父親も)にさえも、クレームを言う人が多いのだという。こうした問題はインターネット上やワイドショーなどでも度々取り上げられ、大きな議論を呼んできた。なぜ、こんなにも日本は不寛容な社会になってしまったのだろうか。 子どもの声が騒音であると感じる人も多いようだ。Jタウン研究所の調査によると、子どもの声を騒音だと思う人は、58.8%にも及んでいる。東京に限って言えば、66%。秋田県では、85.7%もの人が、子どもの声をうるさい騒音だと感じているというから驚きである。
 筆者は、子どもの泣き声やベビーカーを引く母親のことを迷惑だとは、まったく思ったことがない。だって、仕方がないではないか。子どもは泣くし、お母さんだって移動はする。子どもを持つ人は、家にずっと閉じこもっていろとでも言うのか。筆者は子どもが泣いても「可愛い」としか思わないので、イライラする人の気持ちが理解できない。
 むしろ、筆者は電車で泣いている子どもを目撃した時に、「もしかして、周りの人がイライラして文句を言うんじゃないか」という不安で居心地が悪くなってしまう。そういう心配をしなければいけないことに対して、イライラしてしまうのだ。子どもの泣き声ごときで不寛容な態度を取ることこそ、公共の場に相応しくないように思えるのだが……。
 筆者からしてみれば、周りのイライラを心配することのほうが、よっぽど面倒くさい。その場が嫌な雰囲気に包まれないだろうか。トラブルに発展しないだろうか。そうヤキモキして、「イライラする人に、イライラする」という状態に陥ってしまうのである。

かくも生きづらい不寛容な日本社会

 もちろん、子どもが泣き叫んでも無視してお喋りをしているような母親もいるだろう。しかし、それはマナーの問題だ。分煙を守らず路上喫煙する人と、ただの愛煙家を分けて考えなければいけないことと同じである。子どもの泣き声自体は“悪”ではないのだ。
 少子化の影響で自分が子育てをしていないことにより当事者の気持ちがわからず、イライラしてしまう人が増えているという指摘もある。しかし、こうも世間の目が冷たければ、いざ自分が子どもを産んだ時に萎縮してしまう人も増えるだろう。筆者も子どもがいないが(というか、結婚すらしていないが)、いつか子どもを授かったときのことを思うと憂鬱になる。
 これでは、少子化の波が止まるはずがない。どこかのアナリストが、「子どもの泣き声やベビーカーにイライラする人が及ぼす経済損失」を試算して、発表してくれないものか。
 こうした不寛容な社会に面倒くささを感じる場面はほかにもある。
 例えば、居酒屋で店員の些細なミスに激怒する人。こっちは気持ち良く飲んでいるのに、過剰なクレームを聞かされて気分が悪くなり、楽しい場が台無しになる。もしかしたら、その手の人はクレームを言い、店員を懲らしめる権利が自分にはあるのだと思っているかもしれない。しかし、少しはこちらの「楽しく飲む権利」にも心を向けてほしいものだ。
 コンビニのレジでもたつく老人に、舌打ちをしている人も見たことがある。駅前のコンビニだったこともあり、電車の時間を気にしていたのかもしれない。確かにコンビニはスムーズなレジ対応が魅力だし、気軽に速く買い物ができることもサービスの一つだという見方もある。しかし、たった1、2分待つことを許容できないような、余裕のない生活をしていること自体どうなのか。もっと時間にも心にも余裕を持ってほしいものだ。
 電車の中で騒ぐ外国人観光客にだって、「日本が楽しいんだな」くらいに思っていればいい。

「ネガティブな気持ちを伝播させる」というマナー違反

 何度も言うが、子どもはところ構わず泣くし、人はミスをする。お年寄りはレジでもたつくし、外国に来ればテンションが上がる。なぜ、それを「仕方ない」と思えないのか。
 なかには、女性の香水や男性の加齢臭に不快な思いをしている人だっている。しかし、すべてに文句を言っても仕方がない。生活していると、いろんな“バグ”に遭遇することがある。みんなが寛容の精神で乗り切る努力をしないと、殺伐とした社会になってしまう。
 筆者は、マナー違反を放置すればいいと言っているわけではない。問題は、ネガティブな気持ちは人に伝播するということだ。「ネガティブな気持ちを伝播させる」というマナー違反をおかしていることに、なぜ気づいてくれないのか。筆者は、率直にそう感じるのである。
 Facebookが、ユーザーのフィードの内容を操作する実験をしたとして問題になったことがあった。それによると、ネガティブな投稿を表示されたユーザーは、自身でもネガティブな投稿をする傾向があったそうだ。
 また、予防医学研究者の石川善樹氏はcakesのインタビューで、愚痴ることは脳内でストレスフルな状況を再現していることになり、健康被害が起こる可能性があると指摘している。そして、「人間のネガティブ感情は、急速な勢いでまわりの人に伝播していきます。煙草の副流煙は、まわりの人に健康被害を及ぼすと知られていますけど、愚痴も同じくまわりの人にネガティブ感情をまき散らす可能性があります」とも。
 煙草の副流煙に例えられるくらい、ネガティブな感情は体に悪いのである。
 だから、もっとイライラを拡散する人に、私たちは文句を言っていいと思う。
 公共の場において、イライラしている雰囲気を撒き散らす、めんどい人々に言いたい。そのイライラに、イライラする人がいるということを。そして、「ネガティブな気持ちを伝播させる」というマナー違反について、もっと真剣に考えてもらいたいのである。
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