仕事や育児に忙殺されても、女性性は捨てないで

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長・黒田優佳子先生
nikkei BPnet
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共働き夫婦の夜の実態に迫る「共働き家庭の『夫婦生活』白書特集」が話題を呼びました。そこで本連載「黒田優佳子先生の『優しい生殖医療講座』」では、不妊治療専門施設の黒田インターナショナル メディカル リプロダクション(東京都中央区)院長の黒田先生に、不妊治療の現場から考察する“不妊の原因”について伺いました。

帰宅すると化粧を取って、メガネ顔に――。これが不妊につながる可能性アリ

黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長・黒田優佳子先生
黒田インターナショナル メディカル リプロダクション院長・黒田優佳子先生
DUAL編集部 先生の元には不妊に悩む多くの患者さんが集まられると思いますが、共働き夫婦の不妊についてのお考えをお聞かせください。
黒田先生(以下、敬称略) ご夫婦お二人が医学的な要因から不妊になる場合もあれば、仕事や家事などからくるストレスが少なからず影響して不妊に至ることもあろうかと思います。ただ、医学的に見て何も問題が無いご夫婦と、不妊についての面談を重ねている際に、ふと思うことがあるのです。
 共働き世帯が増えているとはいえ、やはり現状では、女性が育児や家事の大部分を負担していることが多いと感じます。外では仕事、家では家事・育児に忙殺されている女性の中には、“女性性”を若干捨ててしまっているかのように見える方もいらっしゃるのかな、と。
 ママ達の中には仕事が終わって家に帰ると、お化粧も取って、スーツも脱いで、パジャマみたいな部屋着に着替えて、コンタクトを取ってメガネをしてラクな格好をしている方も多いでしょう。急いでごはんを作って、子どもに授乳して、夜中も夜泣きに対応するので忙しい。
 パパが帰ってきても食事はワンディッシュメニューになって「悪いんだけど、今日は焼きそばにしたから、野菜ジュースでも飲んでおいて!」となることもあるかもしれません。
―― 共働き夫婦にとっては、そんな展開が日常茶飯事ではないかと……。
黒田 そうですよね。そして、ちょっと遠い話に聞こえるかもしれないのですが、この延長線上に「不妊」の問題があるような気がしてならないのです。
 例えば、下着一つとってもそうです。ママになる前はセクシーな下着を着ていたかもしれない。でも、子どもを産んだ後は機能面を重視して、手洗いが必要な下着ではなく、洗濯機で洗えるシンプルな下着を着けるようになる。くだらないことかもしれませんが、男性はやっぱり見た目や手触りなど、ある程度、なまめかしいものから性欲を感じたりするものです。特に第二子不妊に悩むご主人と二人だけでお話をしていると、一度セックスレスになった夫婦がセックスをする状況に持っていくために、「女性としての魅力が薄れた奥様に対して、もう一度性欲を持つようにするのが極めて難しい」という話が出てくることも少なくないのです。

仕事や育児で精いっぱいになるのは分かる。でも、“女性性”は捨てないで

―― 治療現場で、患者さんの口からそういった話が出てくるのですか?
黒田 一般論ではありますが、男性はどんなにインテリジェンスが高い方でも、女性のなまめかしい部分に強く興奮を覚える傾向の方がいらっしゃいます。第二子不妊のセックスレス状態の理由が、単に仕事による忙しさであればいいのですが、実態としてはそれだけではないことが多いんです。
―― どんな解決策が考えられるのでしょうか。
黒田 私も働く母親ですから、その難しさも実感として分かりますが、やはり「女性性を捨てない」ように努力することが大事だと思います。シンプルですが、美容院に行って、キレイでいる、と。仕事や育児で精いっぱいであっても、女性性を捨ててはいけません。
 ただし、女性にばかり問題があるわけでもありません。女性はセックスする相手に対して「精神的に尊敬できるか、心から愛せるか」という点を重視する傾向があります。相手の男性に対する尊敬の念や愛情が無くなったら、「やめてよ」となりがちです。男性の側にも、女性に尊敬され、愛されるよう、自分を高めていく努力が必要でしょう。
 いい第二子妊娠に持っていくためには、夫婦同士が尊敬し、愛情を持ってセックスするということが大前提にあると思うんです。愛情の無い、心の無いセックスでは妊娠しませんから。
 男性も仕事や子育てに追われ、精神的・肉体的なストレスや過労に悩む奥様を見ています。そして、何となく「妻に構ってもらえていない」という心の寂しさと、奥様を女性として見られなくなってきている状況で、無理に「第二子のために」と思っても、そうそう妊娠には至りません。
 二人目を授かるご夫婦の多くは、第一子の授乳が終わってすぐ次のお子さんができる場合が多いのです。ご夫婦ともにお若く、性欲も強く、仕事も育児も忙しいけれど、何となくやっとセックスができるようになって、すぐ妊娠するというケースです。そのタイミングを逸すると不妊になる確率が高まります。
 第二子以降の不妊では、「機能性不妊」といって医学的な原因の見つからない場合が多いのです。この機能性不妊の枠に入ってしまうと結構大変で、結果的に妊娠に至ることもありますが、その場合もなぜ妊娠したかという理由が分からないのです。
 奥様の女性としての魅力を盛り立てるためにも、男性の皆さんには育児や家事を手伝う。それをご自身ができないのであれば、ヘルパーさんを頼むなどして、奥様の時間的・精神的余裕を確保する。遠回りに聞こえるかもしれませんが、それが第二子不妊の解消につながるように思っています。
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