介護・保育施設100万人分整備 「総活躍」会議緊急対策

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東京新聞
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政府の一億総活躍国民会議は二十六日、安倍晋三首相が掲げる一億総活躍社会の実現に向けた緊急対策をまとめた。介護や子育てをしながら働きやすい環境を整えるため、介護施設や保育施設などの受け皿を増やす必要性を提言した。政府は来年の通常国会に提出する予定の二〇一五年度補正予算案などに関連費用を計上する方針。(我那覇圭) 
 首相は「希望出生率一・八」「介護離職ゼロ」の実現に向けた施策を緊急対策として行う考えを示しており、具体案の取りまとめを国民会議に要望していた。財源や人材確保策は盛り込まれなかった。
 この日の会議で首相は「子育てや社会保障の基盤を強化し、さらに経済を強くするという『成長と分配の好循環』を構築したい。内閣の総力を挙げて緊急対策を実行する」と述べた。
 緊急対策の目玉は介護施設と保育施設の整備拡充だ。介護施設は、厚生労働省が示していた二〇年代初頭までに四十万人分の整備案を首相の指示で上積みし、五十万人分とした。保育施設は一七年度末までに四十万人分増やす計画を五十万人分に拡充する。
 「国内総生産(GDP)六百兆円」実現に向けては、法人税率の早期の20%台への引き下げのほか、二〇年ごろまでに最低賃金の全国平均時給を千円に引き上げる目標を入れた。
 緊急対策には財源確保策はない。介護や保育現場で働く職員の離職率が高いのは、他の業種に比べ仕事がきつい割には給与が安いためだが、待遇改善策も盛り込まれなかった。
 加藤勝信一億総活躍担当相は二十六日の記者会見で「これから議論していく」と述べ、来春の中長期プラン策定に向けての課題と認めた。
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◆「仕事と両立」政府の課題

 国民会議がまとめた緊急対策には、長時間労働の是正など、仕事と介護・子育てを両立できる働き方を実現するための具体策は盛り込まれなかった。これでは施設を充実させても、抜本改革にはほど遠い。
 在宅介護を希望する人は増えており、施設整備だけでは十分ではない。厚労省の調査では年間十万人の介護離職者のうち、介護サービスを利用できなかったとして離職した人は約一万五千人。これに対して、介護を続けるための柔軟な働き方ができなかったとして、離職した人は約四万五千人と三倍に当たる。
 同省が二〇一三年に離職した約千人を対象に行ったアンケートでも、「仕事と介護の両立が難しい職場だったため」との回答が最も多く、六割を超えた。
 政府はこうした事情を把握しているが、「介護離職ゼロ」や「希望出生率一・八」の実現に向けて、今回は二〇一五年度補正予算案や一六年度予算案に反映させやすい緊急策に特化したといえる。
 ただ、これだけでは政府目標を達成することはできない。緊急対策の提言には介護休業の分割取得など介護休業制度を利用しやすくする対策は盛り込まれた。しかし、労働時間の規制など長時間労働是正の抜本策は見当たらない。加藤勝信一億総活躍担当相は二十六日の記者会見で「働き方の見直しは強い経済には非常に重要だが企業の取り組みに期待したい」と述べたが、今後、政府として対策を検討するか言及しなかった。
 安倍晋三首相も消極的だ。十一月十日の衆院予算委員会で井坂信彦氏(維新)が、残業が少ない都道府県の方が出生率が高いと指摘し「長時間労働を正面から規制する制度が必須」と迫った。首相は「働き過ぎの指導徹底と中小企業の残業代割増率の引き上げを行いたい」と述べるにとどめた。政府が一億総活躍社会を目指すなら、仕事と介護・子育てを両立できる環境づくりが欠かせない。 (鈴木穣)
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