保育士不足、負の連鎖 心身とも負担重、待機児童ゼロへ壁に

保育士不足、負の連鎖 心身とも負担重、待機児童ゼロへ壁に
保育士確保に向け、初めて秋に開催された福岡市の「就職フェア」=10月25日、福岡市

西日本新聞
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保育士不足が全国的に深刻化している。希望しても認可保育所に入れない待機児童は今年、5年ぶりに増加。政府は待機児童ゼロを目指して保育所の増設を進めるが、保育士が足りず、整備が追いつかない状況だ。1月に「保育士確保プラン」を打ち出したものの、人材難は厳しくなる一方で、政府は幼稚園や小学校の教諭など保育士資格のない人の活用も検討し始めた。
 「保育士不足は待機児童がいる都市部だけでなく、地方でも深刻。規制緩和は緊急的な対応としてやむを得ない」。16日、厚生労働省で開かれた保育士確保対策の有識者検討会。ヒアリングに応じた保育関連団体から、教諭の活用に前向きな声が上がった。
 長時間勤務に精神的負担、加えて低賃金。短大などの保育士養成施設卒業者のうち保育所に就職する人はほぼ半数で、年間の離職率は10・3%に達している。今年9月時点の保育士の有効求人倍率は全国平均で1・85倍となり、同月時点の過去最高を更新。東京都では5・44倍にも上った。
 「猫の手も借りたい状態。いくら施設を整備しても働き手がいないと始まらない」。福岡市早良区の原西保育園の北口雄也園長はこう漏らす。現在、園では140人の定員を超える156人の子どもを預かり、常勤11人とパート24人でなんとかやりくりしている。来春から新たに小規模保育所2園を開設する予定だが、保育士が集まらなければ断念せざるを得ない。
 既に都内では、保育士を確保できずに新設園の開園が遅れたり、定員を減らしたりするケースも出てきている。「保育士の奪い合いはひどくなる一方。人材派遣会社に高額な手数料を支払ったり、地方へ探しに行ったりしている」。検討会のヒアリングではそんな現状も明らかになった。
 厚労省は保育士確保プランに基づき、全国に70万人以上いる資格があっても働いていない「潜在保育士」の復職支援や保育士試験を年に2回に増やすなどしてきた。ただ、同省の2013年度の試算では、17年度までに保育の受け皿を40万人分増やすためには新たに6万9千人の保育士が必要とされる。さらに安倍晋三首相は今月になって受け皿の10万人分積み増しを表明。さらなる不足は必至だ。
 検討会で厚労省は、保育士の配置人数の3分の1までを幼稚園や小学校、養護の教諭で代替できる▽保育士資格がなくても、保育業務の経験がある人を朝夕の子どもの少ない時間帯や研修中の保育士の代わりに配置できる-案も提示した。
 ただ、処遇の問題が根底にある限り、対策には限界がある。同省の14年の調査によると、保育士の平均月給は21万6千円で、全職種の平均より約11万円低い。全国福祉保育労働組合の小山道雄副中央執行委員長は「実際はもっと低く非正規の募集ばかり。生活を支える職業としての選択肢になり得ない」と指摘する。
 「保育中は昼食やトイレすらままならないほど忙しい」(福岡市の35歳保育士)という過酷な労働環境。保育後も事務作業に追われ、土日は研修や行事でつぶれる。アレルギーや発達障害など特別な対応を求められることも増え、心理的な重圧は募るばかりという。
 「規制緩和ではなく、抜本的な処遇改善をするべきだ」。ヒアリングで保育関係団体の代表者全員が口をそろえた。
 ◆「金の卵」確保へ必死
 今や「金の卵」とされる保育士。九州の自治体もあの手この手で確保策に乗り出している。
 福岡市は10月、市保育協会と「就職フェア」を開いた。例年は学生の就職活動に合わせて6月に実施してきたが、初めて秋にも開催することにした。新年度の入園者募集が10月から始まることもあり、「秋開催」は園側にとって実態に即した求人数をはじき出せるメリットがあるという。
 フェアには79園から約200人分の求人が集まった。参加した田島保育園の高田史敬園長(45)は「保育士はきつくて待遇が悪いと思われているが、やりがいのある仕事と分かってほしい」と力を込める。
 各自治体は潜在保育士の掘り起こしにも力を入れる。福岡市や長崎市などでは市役所に保育士・保育所支援センターを設置。再就職希望者と保育所側の条件面を話し合う場を提供している。北九州市は2009年度から年2回開く研修の中で工作や童歌などの実技を通じ「保育の勘」を取り戻すカリキュラムを実践。佐賀市、熊本市、大分市、宮崎市も潜在保育士の再就職を促す研修会を開いている。
=2015/11/21付 西日本新聞朝刊=
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