落第多いがガリ勉不要のフランス中学事情 教師も生徒も忙しい 日本との違いは「ゆとり」

フランスの通学風景。週末やバカンスをしっかり休むのは子どものうちから。受験勉強や部活に追われることはないようだ(写真:アフロ)
東洋経済オンライン
------------------------------------------------------------------------------------------------
日本で生活をしていると、子どもが成長するにつれ、受験はどうするか、塾には行かせるべきかと教育問題に直面する。フランスの親たちは、思春期の子どもにどう向き合っているのか。自らの体験をもとにフランス中学事情を振り返ってみたい。
フランスの教育制度では、小学校は5年間、中学校が4年間、高校は3年間となっている。日本では小学校から中学校への進級はスムーズだが、落第が普通にあるフランスではそうはいかない。十分な学力がないとみなされれば落第となり、もう1年小学校で勉強しなければならない。
進級できるとなれば、どこの中学校に子どもを進学させるか。公立か、私立か、とフランスの親も悩む。私立中学校の場合、小学校の成績や面接で選考がなされる。小学校ごとに基準が違う成績評価で中学校側はどうやって選考するのか不思議に思っていた。長年、書類選考方式を採用しているので、「この小学校でこの成績ならば、本校のレベルに達している」というような目安があるらしい。

外国語の選択には親の意向が大きく反映

筆者の子どもは私立中学校に通ったが、カリキュラムは公立とほとんど同じだった。科目は、フランス語、数学、歴史・地理、物理・化学、英語など。3年生からは、英語のほかにもう一つ、外国語を学ぶ。「スペイン語かドイツ語」の選択で、スペイン語を選ぶ生徒が多かった。しかし、親の意向でドイツ語を選ぶ生徒もいた。ある母親は、「スペイン語はフランス語に似ているからラクすぎる。うちの子どもにはしっかり勉強してほしい」と話していた。
2年生からはラテン語も選択できる。ラテン語は動詞の活用が複雑で、難しい。しかも、日常使われていない言葉だ。選択者は少数だったが、この選択にも親の意向は働く。子どもにラテン語を履修させた母親によると、「ラテン語を学ぶことにより、背景となる文化や歴史も学べて、子どものためになる」という。
中学校の授業は、8時15分から16時15分または17時25分まで。水曜日は午前授業。昼休みは小学校より少し短くなり、12時15分から13時30分までだった。学校で給食をとっても、昼食をとりに帰宅してもいい。授業は、日本の中学校と同様、科目ごとに担当の教師が教える。
フランスの教科書は、日本の教科書より一回り大きい。ノートも大きい。中学1年生が通学時に持ち運ぶ教科書類の重さは5キログラムほどあるという。リュックを背負って通学する子どもが多いが、なかにはキャスターつきのかばんを引いて登校する子どももいた。
中学校も小学校と同じように、6週間通学するごとに2週間の休暇というスケジュールだが、勉強はぐっと本格的になる。
フランス語では、モーパッサンやゾラ、モリエールらの作品に取り組む。英語は、日本の中学校と比べて進度が速い。文法を細かく学ぶより、大量の英文を読み、書くことに重点を置いている。驚いたのは数学だ。教師から、「計算機を用意するように」との指示があった。生徒は、授業中に計算機を使って計算するし、テストでも計算機を使ってよいことになっていた。ややこしい計算は機械に任せ、数学的なものの考え方を身に着けることを重視しているらしい。

重要な役割を担う学級代表の保護者

中学校に入学して早々、保護者会があった。学年の全体会の後、クラスごとに分かれ、保護者の学級代表2人を決めることになった。さっと2人の女性が手を挙げ、すんなり決まった。日本のPTA委員はなかなか決まらないが、ボランティア精神旺盛な人がいるものだと感心する。この学級代表は重要な役割を担っていると、後になってわかった。
フランスの中学校には、日本のような定期テストはなく、評価は授業時間中に実施されるテストやレポートなどで決まる。各学期の通知表は、自宅へ郵送される。評価の満点は20点で、各教科の本人の点数、クラス内の順位、教師のコメントなどが記されている。本人の全教科の平均点、クラス内順位という項目もある。子どもがクラスの中でどのあたりのレベルにいるか、得意な科目や苦手な科目は何か、一目瞭然だ。
「学級会議の意見」という欄もあり、学業の達成度について、総合的な見解が示されている。この学級会議は、教師、生徒と保護者の学級代表で構成されている。学期ごとに開かれ、クラスの問題について話し合ったり、生徒1人ひとりについて学業の達成度を討議したりする。この欄に「落第の恐れ」などと書かれたら、要注意だ。
学級会議が開かれる前に、保護者の代表はクラス全員の保護者に連絡して、「何か学校で問題はないか、学校に伝えることはないか」と意見を聞く。何を言ったらよいのかよくわからなかった筆者は、「特にありません」などと答えていた。
実は、子どもの成績が不振だったりすると、学級会議での心証を良くするために、代表にアピールする必要があるのだという。たとえば、「うちの子は英語が苦手だけれど、これから家庭教師をつけて特訓する」などと。保護者の代表は、学級会議で他の保護者の胸の内を代弁するという大事な使命があったのだ。
日本には塾がたくさんがあるが、フランスでは塾の存在感が薄い。数が少ないうえ、基本的には成績不振な子どものサポートを目的としている。フランスの中学校のテストは、丸暗記すれば高得点がとれるという類いではなく、記述が多く思考力や論理性が問われる。長時間の勉強が必ずしも好成績につながらない。成績優秀な子どもも、週末やバカンスにはしっかり休む。家族と旅行に出かけたり、友達と遊んだり、スポーツを楽しんだりする。そうして、気分転換したり見聞を広げたりした方が、勉強への集中力もアップして、結果として良い成績につながっているようだった。
日本の中学校では、週末や長期休暇中も部活動の練習や試合があって、教師も生徒も忙しい。フランスの中学校には、日本のような部活動はない。学校の課外活動で、希望者は週1回程度、水泳やサッカーなどのスポーツに参加することはできた。また、学校外で週1回程度、ダンスやテニス、乗馬などの習い事をしている子どももいた。
部活動がないので、教師も生徒も週末や長期休暇中には、時間にゆとりができる。運動会も文化祭もないので、その準備に時間を費やすこともない。フランスの中学校では、学校は勉強する場所で、息抜きは学校外でする、という区別がついていた。

就職で大きな役割を果たすコネ

夏のバカンス前の学級会議では、各生徒の進級の可否が判断される。成績が不十分な場合は、学校側と保護者の話し合いもなされる。「本校にとどまるならば落第だが、他校に転校する場合は進級とする」と、学校側が提案することもあるという。9月の新学期には、落第する生徒や転出する生徒、転入する生徒もあって、かなりの入れ替わりがある。なかには、外国やフランス国内の寮付きの学校に子どもを転校させる親もいる。「寮生活で生活のリズムを整え、勉強の習慣をつけさせる」という利点があるそうだ。小学校から落第はあるが、中学校になるといよいよ厳しくなるという印象だった。サルコジ前大統領も中学校で一度落第した。英語の成績が悪かったからという。
私の印象では、フランスの親には、より上を目指して子どもにガリ勉させようという切迫感のようなものはなかった。良い学歴があれば、高い収入の仕事につけるとは限らないからだ。フランスの就職では、コネが大きな役割を果たすという。コネがなければ、学歴に見合う仕事がみつけられないこともある。
しかし、ずばぬけた学歴がなくても、普通の仕事につければ年間5週間の法定有給休暇は誰にでも与えられる。高収入でなくても、バカンスを楽しみ身の丈に合った暮らしができれば、幸せではないか。子どもの学校生活が受験勉強一色にならないのは、そんなフランス人の人生哲学があるからなのだろう。
------------------------------------------------------------------------------------------------